海外での商標登録にかかわる注意点

海外で自社製品や自社サービスを展開したり、海外で商標を商標登録したりする場合の注意点について説明します。

目次

商標登録にかかわる海外展開のリスク

みなさんがビジネスを海外で展開する際の商標にかかわるリスクを以下の4つに分けて解説します。

  1. 商標登録がないと海外で他社に模倣される
  2. 同一または類似している商標を登録されてしまう
  3. 他社が既に商標登録しているとビジネスができない
  4. 商標特有のリスク

商標登録がないと海外で他社に模倣される

商標登録することで、自社の商品やサービスなど名称(商標) を独占的に使用できる権利、商標権をもつことができます。

なお、商標登録できる対象は、商品名やサービス名に限らず、ロゴ、マークも含まれます。

自社の商品名などの名称を表示することで「この製品は自社の製品です」とユーザーに認識してもらうことが可能です。

ただし、商標登録は国ごとに定められた制度です。

すなわち、日本国内で商標を登録していても、海外では、日本で登録しているから商標を保護して欲しいといった主張は通用しません。

例として、日本で人気のお菓子を海外でも販売する場合を考えましょう。

展開先でその商品名を商標として登録していない場合、他社による模倣が可能です。

つまり、展開先で自社が商標を登録していなければ、他社が正々堂々とその商品名をつけてお菓子を販売できます。

このとき、自社のお菓子よりも品質や味の悪いお菓子に自社の商品名をつけて売られてしまう可能性もあります。

これでは、苦心して開発したお菓子のブランドイメージなどを守れません。

また、特許で守る技術とは異なり、商標登録で守られる商品名やサービス名は、他社にとって既存の商品やサービスの名称を変更するだけで模倣でき、いわゆるフリーライドが容易な対象になります。

そのため、海外展開する際には、特許よりも、商品名やサービス名を慎重に扱う必要があります。

したがって、海外展開する場合には、展開先の国ごとに商標を登録することが重要です。

なお、日本では商標登録をしていなくても、海外だけで商標登録することも可能ですが、日本で登録した後に、海外で登録すると、その登録の許可が下りやすい場合もあるので、まず日本で商標を登録しておくことをお勧めします。

同一または類似している商標を登録されてしまう

商標登録の制度は、国ごとに定められた制度です。

このため、自社の商品やサービスなどの名称 を展開先で商標として登録していない場合、展開先で他社が同じまたは似ている商品名やサービス名を商標として登録できてしまいます。

さきほどのお菓子の例だと、展開先で自社のお菓子の商品名を他社が商標として登録できてしまうことになります。

そして、このような場合には、 日本では商標を登録できているために商品名を自由に使えていたにもかかわらず、展開先では、その商品名が使えなくなります。

それは、お菓子にその商品名を使ってしまうと、その国で商標権を侵害してしまうからです。

これでは、これまで築いてきた信用や味を保証する商品名を付けずに販売することになってしまい、ビジネス上非常に不利です。

このことからも、海外展開する場合には、展開先の国で他社に商標を登録されてしまうことがあるので、なるべく早く自社で商標登録することが重要になります。

他社が既に商標登録しているとビジネスができない

展開先で自社の商品名やサービス名を他社が商標として登録していると、最悪の場合、ビジネス自体ができなくなることもあります。

商標登録も特許 と同じく展開先で他社が取得している場合、みなさんが日本で商標を登録していても、海外では他社の商標権を侵害してしまうのです。

特に屋号を含む商品名(例えば、「ソニー」(登録商標))や、製品のシリーズ名など広範囲に使用できる商標を展開先で他社に登録されていると、展開先で全くビジネスができない可能性もあります。

このことから、海外でのビジネを展開する際には展開する国で、使いたい商品名やサービスなどの商標が登録されているどうか事前に調査しましょう。

商標特有のリスク

商標登録の制度では、商品名やサービス名などの商標と「指定商品・指定役務」(その商標を使用する分野またはビジネスカテゴリー)とを組み合わせて登録しなければなりません。

このため、同じ商標を様々な商品やサービスで使いたい場合は、「指定商品・指定役務」を広く登録しておくことが必要です。

実際に登録された商標を見ると、かなり広い範囲で「指定商品・指定役務」を登録しているケースが多く見られます。

これは将来、サービスを他の分野に展開することや他社による権利取得を阻止するためです。

例えば自社が食品分野について商標を登録しようとしている 場合に、将来的にはその食品を使って飲食店を出店する計画を持っているとしましょう。

この場合、食品分野と飲食店の店名を保護できるように「指定商品・指定役務」を指定して商標を登録することが好ましいです。

極端な例になりますが、自社商標をこの食品分野だけで登録すると、他社がその商標を家具につけることが可能になってしまいます。

これは、商標登録の制度が、先に説明した通り、商標と「指定商品・指定役務」との組み合せで登録を認め、その範囲内でしか、商標登録による保護をしないためです。

このようなケースは、海外で多く発生しているのでよく注意しましょう。

日本で有名な商標でも、海外ではどの分野で使用されているか思った以上に認知されていません。

そのため、全く関係のない商品に自社の商標がついていても同じメーカーのものだと認知されてしまうことがあります。

したがって、海外展開する際には、商標を登録する場合の「指定商品・指定役務」についてよく考えた上で出願しましょう。

海外展開の際の商標登録のメリット

次に、海外展開する際に商標を登録するメリットを以下の3つのポイントで解説します。

  1. 自社製品やサービスを自由に展開できる
  2. 他社の模倣を防げる
  3. ビジネスの信頼性が高まる

自社製品やサービスを自由に展開できる

海外の展開先の国で商標登録することで、自社製品やサービスを自由に展開できるのが最大のメリットです。

さきほど、リスクの項でも述べたように、商標登録は国ごとにおこなわなければなりません。

このため、海外の展開先で商標を登録しておけば、自社製品などを他社の模倣から守れます。

さらに、展開先での商標の登録があれば、他社が同じまたは似ている商標を登録することもできません。

また、商標登録は特許と異なり、更新制度という制度があり、更新し続けている限り、商標登録を維持することもできます。

すなわち、商標登録を半永久的に維持することが可能です。

これにより、更新し続けている限り、半永久的に他社を気にすることなく、ビジネスを自由に展開できるのが、海外の展開先で商標登録を取得する最大のメリットです。

他社の模倣を防げる

海外の展開国で商標登録することで、他社の模倣を防止できます。

海外の展開先の国で商標登録しておけば、自社の商品名などを他社が模倣している場合に、その他社に対して商標権侵害を主張できます。

これにより、他社による自社の商品名の模倣を防止できるのです。

しかしながら、リスクの項で述べたように、商標登録では、商標と指定商品・指定役務とを組み合わせて登録することになります。

そのため、海外において、自社で商標を登録してしたとしても、他社が、その指定商品・指定役務と異なる商品や役務で商標を登録することが可能です。

このことから、自社がサービスを広げようとした時に、この他社の商標権を侵害してしまう可能性もあります。

このため、海外で商標を登録したあとも、定期的に自社の商品やサービスの見直しをおこない、海外においても、必要に応じて異なる指定商品や指定役務でも商標を登録しておきましょう。

ビジネスの信頼性が高まる

海外の展開先で商標登録していれば、海外におけるビジネスパートナーや顧客からの信頼度が上がります。また、信頼度が上がれば、ビジネス進行がよりスムーズになります。

外国の商標登録の申請方法

続いて、外国への商標の出願方法について解説します。外国に商標を出願する方法としては「外国に直接出願」と「マドプロ出願」があります。

出願の方法を順番に解説し、それぞれのメリットとデメリットを解説します。

外国に直接出願

外国に直接出願する方法としては、特許と同様にパリ条約ルート(パリルートとも言われる)を利用する方法が多く利用されています。

パリ条約ルートの出願は、日本に出願をした日から6ヵ月以内に「優先権」というものを主張して権利を取得したい国に出願する方法です。

パリ条約ルートを利用することで、その国に出願した日を、日本国に出願した日と同様に扱ってもらえるようになり、審査の上で非常に有利な状況を得ることができます。

なお、優先権を主張できる期間が特許の1年と違い、商標は6ヵ月と短いことに注意しましょう。

マドプロ出願

マドプロ出願とは、日本の基礎出願を条件にWIPO(国際事務局)へ出願し、マドリッド協定議定書加盟国内の権利を取得したい国に出願する方法です。

日本で登録されれば、指定国でも同様に保護を受けることができます。商標には大切な更新登録手続きも日本特許庁への手続だけでおこなえます。

なお、マドリッド協定議定書とは、正式名称は「標章の国際登録に関するマドリッド協定の1989年6月27日にマドリッドで採択された議定書」といい、商標に関する条約です。

2023年時点で、イギリスやスウェーデン、スペインなどをはじめとして130の国をカバーできる114の加盟国が参加しています。

各出願方法のメリットデメリット

「直接出願のメリット」は、以下の通りです。

  • 商標を取得したい国が少数の場合はコストを抑えられる
  • 各国に直接出願するため権利化までの期間が短い
  • 各国に直接出願するため、商標や指定商品役務の内容、出願人を変えることができる

「直接出願のデメリット」は、以下の通りです。

  • 各国に直接出願するため、多くの国に出願する場合は手続きが煩雑になる
  • 商標登録したい国ごとに現地代理人が必要となるため、国が増えればそれだけ費用や手間がかかる

「マドプロ出願のメリット」は、以下の通りです。

  • 外国への商標出願手続が1つの出願だけで完了する
  • 各国審査にて、拒絶理由が通知されない限り現地代理人費用は発生しないため、費用を抑えることができる
  • 登録後の更新管理も一括して行われるため、管理しやすい。その点、PCT出願では、特許取得後は、各国毎に管理する必要があります。

「マドプロ出願のデメリット」は、以下の通りです。

  • すべての国において日本国出願時と同一の商標で指定商品及び役務で出願することになる。つまり、パリルートのように商標や指定商品などを国ごとに変えることはできない。
  • 国際登録日から5年以内に、基礎となる日本国出願が拒絶される、登録が消滅すると、すべての指定国での登録が取り消される(セントラルアタック制度)
  • 救済措置としては各国の国内出願への移行があるが、別途現地代理人費用が発生する

外国の商標登録の調査

海外でビジネスを展開する場合や商標登録する場合には、特許と同様に必ず外国の商標の調査をおこないましょう。

リスクの項で述べたように、展開国で自社の商品名やサービス名などと同一もしくは類似している商標が他社により登録されていると、自社の商品名やサービス名などが他社の商標権に抵触してしまう可能性があります。

商標権の抵触があると、商標権侵害になりますので、ビジネスを展開することが難しくなってしまいます。

ただし、商標登録は、商標とその使用分野とを組み合わせた権利です。商標が似通っていても使用する分野が異なれば商標権の侵害を回避できる可能性もあります。

そのため、外国の商標登録について詳しく調査しましょう。

なお、海外の商標を調べる方法としては、以下のような方法があります。

商標データベースの利用

WIPO(世界知的所有権機関)が提供する「Global Brand Database」や「Madrid Monitor」、米国特許商標庁の「Trademark Electronic Search System (TESS)」、欧州連合知的財産庁の「TM view」などのデータベースを利用することで、世界中の特許情報を検索できます。

専門家による調査

データベースを利用する方法の他、専門家に依頼する方法があります。

商標登録の場合、商標の類似のほか、指定商品および指定役務も重要です。

この指定商品や指定役務は国ごとで分類が異なる場合があります。

この点からも専門家に依頼するのが好ましいでしょう。

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