海外で自社製品や自社サービスを展開したり、海外で特許を取得したりする場合の注意点について説明します。
特許にかかわる海外展開のリスク
海外展開の際の特許にかかわる以下の3つのリスクを解説します。
- 他社に模倣される
- 他社に自社製品や自社サービスと同じような特許を取得されてしまう
- 自社製品や自社サービスに関する特許が成立していてビジネスができない
他社に模倣される
海外で自社製品や自社サービスを展開すると、その展開国で模倣に晒される可能性があります。
日本でビジネスを展開しているみなさんは、「特許を持っていれば、模倣を防止できるんじゃないの?」と思われるかもしれません。
しかし、自社製品や自社サービスの模倣を展開先で防止するには、その国ごとに、特許を取得しておくことが必要です。
これは、取得した国でしか特許の効力がないためで、日本国内の特許は日本以外の国では効力がないためです。
ときどき、「世界特許」を取れば世界中で自動的に自社製品等が守られるといった話を聞くことがあります。
しかし、そのような「世界特許」というものはありません。展開する各国で自社製品等を守るにはそれぞれの国の特許が必要です。
よって、海外で自社製品や自社サービスを展開する場合、その国で模倣されないようにするには、その国で適切に特許を取得することが必要です。
他社に自社製品や自社サービスと同じような特許を取得されてしまう
海外で自社製品や自社サービスを展開する場合に、その国での特許がなければ、その自社製品や自社サービスを見た他社に、その国で類似した内容の特許を取得されてしまう可能性があります。
ただし、日本で特許を出願している状態や、既に特許を持っている場合には、展開国で他社が同じような特許を取得できないケースが多くあります。
これは、自国以外でも既に出願されている、もしくは取得されている特許と同じ技術内容の特許の取得を認めないという国が多いからです。
しかしながら、必ずそのような扱いをする国だけではないので、展開国においても特許を取得しておくことが重要です。
自社製品や自社サービスに関する特許が成立していてビジネスができない
海外の展開国で他社により特許が成立していると、ビジネス自体ができない場合があります。
先にお話ししたように、海外の展開国において、自社と同じような製品やサービスについて他社が特許を取得できることがあります。
海外の展開国で他社に特許が取得されてしまうと、海外展開するみなさんが、たとえ日本の特許を持っていても、その海外の展開先の国で他社の特許権を侵害することになります。
この場合、ビジネスの展開自体が困難です。
また、他社の特許の存在を知らずにビジネスを始めると、後々、損害賠償を請求される可能性があります。
そのようなことにならないためにも、海外の展開先の国で類似している製品やサービスについて他社が特許を取得していないかを調査しておくことが必要です。
また、他社が特許を取得していた場合には、他社とライセンス契約を結ぶなどの対応が必要になります。
海外展開の際の特許取得のメリット
続いて、海外展開する際に特許を取得する3つのメリットを解説します。
- 自社製品やサービスを自由に展開できる
- 他社の模倣を防止できる
- ビジネスの信頼性が高まる
自社製品やサービスを自由に展開できる
海外の展開先の国で特許を取得することで、自社製品やサービスを自由に展開できます。
先のリスクの項でも解説しましたが、特許権は国ごとに取得しなければなりません。
ただし、海外の展開先で特許を取得しておくことで、自社製品や自社サービスを他社の模倣から守れます。
さらに、展開先で特許を持っていれば、他社が同様の内容の特許を取得できないため、その展開先の国で、他社の特許を気にすることなく、自社製品やサービスを自由に展開できます。
これは、最大のメリットです。
他社の模倣を防止できる
海外の展開国で特許を取得することで、他社の模倣を防止できます。
海外の展開先の国で特許を持っていれば、自社製品などを他社が模倣している場合には、その他社に対して特許侵害を主張できます。
これにより、他社による模倣を防止できます。
ビジネスの信頼性が高まる
海外の展開国で特許を取得すると、海外におけるビジネスパートナーや顧客からの信頼度が上がります。
また、信頼度が上がれば、ビジネス進行がよりスムーズになります。
外国の特許の申請方法
次に、外国の特許の申請方法について解説します。外国に特許を出願する方法としては「外国に直接出願する方法」と「PCT出願で出願する方法」があります。
順番に解説し、各方法のメリットとデメリットを解説します。
外国に直接出願
外国に出願する方法として、外国に直接出願する方法があります。
そして、直接出願する方法の中でも、パリ条約ルート(パリルートとも言われる)を利用する方法が便利です。
パリ条約ルートの出願は、日本に出願をした日から1年以内に「優先権」というものを主張して権利を取得したい国に出願する方法で、多く利用されています。
パリ条約ルートを利用することで、その国に出願した日を、日本国に出願した日と同様に扱ってもらえるようになり、審査の上で非常に有利な状況を得ることができます。
PCT出願
PCT出願は、特許協力条約(PCT)に基づいて行なわれる出願で、単一言語、単一の形式の出願をするだけで、複数国に特許出願したものとして扱われる出願です。
そのため、PCT出願は、各国への「特許出願の束」という表現も使われます。
このPCT出願により、日本語で出願するだけで、そのまま各国における出願として扱われ各国で出願日を確保できます。
PCT出願においても各国における先願の地位を確保できるため、審査の上で非常に有利です。
ただし、PCT出願では、出願後に各国における特許出願として出願し直す「国内移行(各国移行)」が必要になります。
この移行できる期間は、優先日(日本への出願日)から2年6カ月(30カ月)です。
見方を変えると、優先日(日本への出願日)から2年6カ月の移行期間に、「本当に特許を取得したい国を選定できる」という点もPCT出願の大きなメリットになります。
各出願方法のメリットデメリット
「外国に直接出願」のメリットは以下の通りです。
- 特許を取得したい国が少数の場合はコストを抑えられる
- 各国に直接出願するため権利化までの期間が短い
- 各国に直接出願するため、国ごとに出願内容を変更や修正ができる
- PCT非加盟国にも出願が可能である
「外国に直接出願」のデメリットは以下の通りです。
- 各国に直接出願するため、多くの国に出願する場合は手続きが煩雑になる
- 一度に翻訳や事務手続きなどが必要となるため、短期間に集中してコストがかかる
「PCT出願」のメリットは以下のとおりです。
- 外国への特許出願手続が1つの出願だけで完了する
- 発明を評価するための先行技術などの調査結果を事前に確認でき、審査官の見解も聞ける
- 出願してから2年6ヵ月の間に各国への「国内移行(各国移行)」移行処理をおこなうため、その間に翻訳文の作成や権利取得する国の選定などをおこなえる
「PCT出願」のデメリット
- 出願する国が既に決まっており、少数の場合は費用が余分にかかることがある
- PCT非加盟国には出願できない
どちらの出願方法にもメリットとデメリットがあります。
そのため、自社のビジネス戦略に合わせ、どちらの出願方法が適しているか検討することが重要です。
外国の特許の調査
海外でビジネスを展開する場合や特許を出願する場合には、必ず外国の特許の調査をおこないましょう。
リスクの項で述べたように、展開国で自社製品や自社サービスと似ている内容の他社の特許がある場合、自社製品や自社サービスが他社の特許に抵触してしまうかもしれません。
特許の抵触があると、ビジネスを展開すること自体が難しくなってしまいます。
予め調査することでライセンス契約などの選択肢も選べます。
また、自社製品や自社サービスの特許を日本や外国に出願するときには、海外の先行特許を調査しましょう。
これは、日本国内の出願と外国出願のどちらの場合でも、外国の特許や出願があることで特許とならない場合があるためです。
このような先行特許がある場合は、抵触しない方法での出願を検討することも重要です。
なお、海外の特許を調べる方法としては、以下のような方法があります。
国際特許データベースの利用
WIPO(世界知的所有権機関)が提供するPATENTSCOPEや、米国特許商標庁のUSPTO、欧州特許庁のEspacenetなどの国際特許データベースを利用することで、世界中の特許情報を検索できます。
有料の特許情報サービスの利用
特許情報を専門に取り扱う有料の特許情報サービスを利用することで、より詳細かつ正確な情報を入手できます。