みなさんこんにちは、アイリンク国際特許商標事務所弁理士の井上です。
今回の記事では、弁理士自身が徹底考察する、「ぶっちゃけ、商標登録って弁理士に依頼する必要あるの?」という話をしていこうと思います。
弁理士に商標登録する依頼をするメリットというのは、おそらく多くの弁理士の方が語られているところだと思います。
しかし、2025年5月現在、AIがこれだけ何でも教えてくれる時代になって、それでも専門家に依頼するメリットがあるのかを本気で説明しようと思うと、「正直、いままでの模範回答だけでは全く説明できないよな~」と思っています。
この記事では、商標登録をする上で、弁理士に依頼しないと難しい場面と自分でも簡単にできる場面を、2025年最新の状況を踏まえて徹底解説します。
そもそも商標登録とは

本題に入る前に、前提として、そもそも商標登録って何? という話を、ごくごく簡単に解説します。
商標というのは、最も多いのは、店名、商品名、ブランド名、屋号…のような、ビジネス上のネーミングとか、あと、文字だけでなく、図形とか絵とか、デザインを伴うロゴマークなども商標といいます。
つまり、その名前とかロゴマークとかを見たら、「あ、あの人の商品だね」「あの人のお店だね」とユーザーがわかる目印になるものが商標です。
英語でいうと、トレードマークとか、ブランドといった言葉になります。

そして、商標登録とは、これらの商標を特許庁に届け出て、同じ業種の範囲内では、他の人が紛らわしい名前とか、マークとかを使えない状態にしてもらう手続きです。
このように説明すると、すごく平和的で、トラブルなんて全く起きなさそうな、至極当たり前の権利を守る制度に聞こえるかもしれません。
ところがですね、それが現実としてはそうではありません。
なぜならば、この商標登録の効力って、すごく強いからです。
独占排他権といって、自分がその商標を自由に使えるっていうだけでなくて、許可なく他人が一切似たような商標を使えなくなる権利なんですね。

しかも、この商標登録の制度のすごく難しいところは、基本的に早い者勝ちの制度だということです。
例えばAさんとBさんが同じ店名を使って5年前からカフェを営業していたとします。
この時、特許庁は、AさんとBさんのどちらに優先して商標権を与えるかというと、先に商標登録出願した方です。
なので、このケースで仮にAさんが先に商標登録したとしたら、Bさんは、その時点から、5年間使っていた店名を変えなくてはならないということになります。
商標登録って、例えば建設業の営業許可のように、「許可を得なければ事業をやってはいけない」という性質のものではありません。
むしろ、保険に近いと思っていただくといいと思います。
つまり、さっきのBさんのように、いきなり長年使っていた店名を変えなくてはならないような状態が来ないようにするための保険と考えると、わかりやすいと思います。

商標登録は何が難しい?

この記事のテーマは、「商標登録って弁理士に依頼する必要があるの?」ということなので、「そもそも、商標登録って何が難しいのか」という話を先にしておきます。
まず、商標登録で失敗するシーンをご想像していただきたいのですけれど、多くの方は「登録NGになるシーン」を想像すると思います。
ただ、私がイメージする、商標登録の失敗って、ちょっと違うんですよね。
もちろん、審査でNGと言われるのも大変なことなんですが、それよりも何よりも、そもそも、「指定商品の記載が足りない」とか、「商標の選択がベストでない」とか、「いまいちな内容で商標登録してしまって、いざという時に思ったように役に立たない」、というのが、私が真っ先にイメージする商標登録の失敗です。
例えるならば、車を運転していて、交通事故に遭ったとします。
それで、自動車保険の適用を受けようと思って保険会社に連絡したら、「実は5年前に加入したのが自動車保険ではなくて自転車保険だった」みたいな話です。
商標登録だけでなく知財戦略全般がそうなのですが、何が難しいって、それが役に立ったり、逆に問題が発覚したりするのが、5年後とか10年後とか、結構先のことになることが多い点なんです。
例えば、日本で商標登録したのち5年後くらいに、外国でも商標登録が必要になることがあります。
この時に、日本の商標登録の指定商品の記載に足りないものがあって、外国での商標登録の前に日本の商標登録を全部やり直すことになる、なんてことはよくあります(弁理士を使ってすらあります)。

これは、あくまで2025年現在の話で、そう遠くない未来に、一般の方でも、完全にAIを使いこなすことで、このような失敗をかなり防止できる時代が来るかもしれません。
ただ、今現在は、AIは十分に進化しているものの、まだ、一般の方がそれを使いこなして完全に適切な権利範囲で商標登録するというのは、かなり難しいです。
なぜそう言えるかというと、弁理士がAIを使ってすら、完全に適切な権利範囲で商標登録することは、まだまだ難しいためです。
弁理士に依頼するメリットが低くなる場合と高くなる場合

さて、ここから本題に入りまして、「商標登録は、弁理士に依頼する必要があるか?」という話をしていきます。
これは、結論から言ってしまうと、当たり前のことですが、ケースバイケースです。
例えるならば、「病気や怪我をしたときに、病院に行く必要がありますか?」という質問への回答と同じです。
ただ、もちろん、ご安心ください。
アイリンクのサイトは、ビジネスをしている方にとって役に立つ情報だけを厳選してお伝えするサイトなので、ケースバイケースです、なんていう役に立たない話では終わりません。
ここからは、「弁理士に依頼するメリットが低くなる場合」8個と、「弁理士に依頼するメリットが高くなる場合」8個を厳選してあげていきたいと思います。
これは、ちょっとまわりくどい言い方になるかもしれません。
ただ、私は弁理士ですから、極論を言えば、お金を厭わないならば、どんな商標登録だって弁理士に依頼した方が良いと思っています。
つまり、「問題は費用対効果の話だけ」ということです。
なので、ここからは、コストパフォーマンスに注目して、どういうケースだと弁理士に依頼するメリットが低くなり、どういうケースだと弁理士に依頼するメリットが高くなるかを解説していきます。
弁理士に依頼するメリットが低くなる場合
まずは、弁理士に依頼するメリットが低くなる場合を8個あげていきます。
以下の8個です。
- 昔からあるシンプルな業種の場合
- 商標検索したけれども、全然類似の商標がヒットしない場合
- ほぼ、自分一人で事業をしているとき
- 仮に登録NGになったとしても、商標を変えるつもりはない場合
- 性格的に、書類を作ったり、特許庁とやりとりしたりするのが苦じゃない場合
- 登録後にきちんと管理ができる場合
- 商標登録すること自体が目的の場合
- 事業範囲が国内のみで、なおかつ商標が1個だけの場合
1.昔からあるシンプルな業種の場合
昔からあるシンプルな業種というのは、例えば、「地域で一店舗だけで営業している飲食店、美容院、整体院など」です。
こういう業種の場合は、指定商品役務が1区分に収まりやすい上に、記載の仕方も43類「飲食物の提供」とか、44類「美容」とか、一言で済ませることもできます。
これは、自分で商標登録をする際のハードルをかなり下げる場合になるはずです。
ただし、もちろん、注意点はあります。
一つ目の注意点として、例えば同じ飲食店でも、少し業態が複雑な場合は、結構、指定商品役務の記載が難しくなります。
例えば、スターバックスのような業態のカフェの場合、43類(飲食物の提供)だけでは足りず、35類(飲食物の小売)、30類(商品としての菓子、パン、コーヒー飲料など)も必要になります。
あるいは、例えば整体院の場合でも、きちんと商標登録したいと考える方って、自分が施術するだけでなく、「自分の技術を教えるサービスをしよう」と考えている方も多いです。
こういう場合は、もはや昔からあるシンプルな整体院の範疇ではなくなってきます。
二つ目の注意点として、書類を作るのは簡単であっても、類似の商標があるかどうかの調査は簡単ではありません。
例えば飲食店の分野なんかは、非常にたくさんの商標登録がされている分野です。
なので、似たような店名がすでに商標登録されている可能性は結構あります。
このように、注意すべきことはいろいろありますが、昔からあるシンプルな業種の場合は、比較的、自分で商標登録しやすいと言えます。

2.商標検索したけれども、全然類似の商標がヒットしない場合
自分が商標登録したい商標と類似の商標がすでに登録されていないかは、特許庁のJ-PlatPatというプラットフォームで誰でも検索をかけることができます。
ここで重要なのは、「完全に同一の商標だけでなく、類似商標まで調べる必要がある」ということです。
そのために最も簡単な方法として、称呼(類似検索)という機能を使う方法があります。これを使うと、ちょっと広すぎるくらい、自分の商標と類似するかもしれない商標がヒットします。
もしここで、1件もヒットしないとかであれば、他人の商標と類似するという理由で、審査で登録NGになる可能性は、かなり低いと思っていいです。
こういう場合は、弁理士に精度の高い商標調査をしてもらうメリットはだいぶん薄れますので、弁理士に依頼するメリットが下がる場合といえます。

なお、自分で商標検索する方法は、私の過去の記事で徹底解説していますので、そちらもご参照ください。
3.ほぼ、自分一人で事業をしているとき
これは、簡単にいうと、「仮に商標登録で失敗しても、リスクが自分にしか及ばない」ということです。
逆にいうと、例えば、投資家から資金提供を受けていたり、クラウドファンディングをしていたり、あるいは、百貨店で商品を販売してもらっているなど、大きな提携先がある場合は、迷わず弁理士を使うことをお勧めします。

4.仮に登録NGになったとしても、商標を変えるつもりはない場合
この辺りから、少し高度なシチュエーションになってきます。
「ん? どういうこと?」と思う方も多いと思いますので、例を挙げて丁寧に説明しますね。
例えば、また、飲食店を例に考えてみましょう。
今、あなたが地元で10年間、「スターバック」というカフェを経営してきたいとします。
10年やってきた甲斐あって、最近結構人気のあるお店になって来たので、そろそろ「スターバック」という店名を商標登録した方が良いかなと思いました。
経営者というのはやると決めたらすぐ実行する人が多いですよね。
あなたは、ネットでいろいろ調べたりして、自分で「スターバック」を、43類(飲食物の提供)の分野で商標申請しました。
さて、商標申請して半年ほど経った頃。
特許庁の審査官から拒絶理由通知というのが届き、「登録商標の『スターバックス』と類似しているから、登録できません」と言われてしまいました。
このような時、あなただったら、どうするでしょうか?
「それはまずい、店名を変えよう!」という方もいらっしゃると思います。
ただ、現実には、10年間使い続けていて、お客様に認知されてきている店名を変更するのは簡単なことではありません。
しかも、現状として、特許庁の審査で「類似商標がある」と言われただけで、スターバックス社から何か言われたわけではないわけです。
なので、現実としては、このようなシチュエーションにおいて、「商標登録できなかったのは残念だけれども、そのままの店名を使い続ける」という選択をする方は、非常に多いです。
「スターバックスから何か言われたら、その時に名前を変えることを考えよう」というスタンスですね。
もちろん、類似の登録商標があるのにその店名を使い続けるということは、他人の商標権を侵害している可能性があるということであり、違法行為である可能性がありますから、良いことではないのですが、もうこれは、現実問題としてはどうしようもない場合があります。
このように、「すでにスターバックという商標が決まっていて、仮にこれが商標登録にならなかっとしても、今さら店名を変えることはできない」こういうケースでは、仮に弁理士に依頼するメリットが下がります。
なぜかというと、弁理士に依頼していたとしても、同じ結果になってしまった可能性が高いためです。
もし、先ほどのお話で、スターバックのオーナーが、弁理士に商標登録の依頼をしていた場合にどうなるかというと、弁理士は、事前に商標調査をして、「『スターバック』は、『スターバックス』と類似と言われて商標登録にならない可能性がある」と教えてくれたはずです。
しかし、それを知ったところで、「じゃあ、店名を『スターカップ』という店名に変えて、商標登録します…」ということにはならないと思うんです。
弁理士も、おそらく、「とりあえず、可能性は低めですけれど、出してみますか?」と提案すると思います。

このように、「商標は絶対に変えられない」という場合は、弁理士の精度の高い事前調査も、あまり意味をなしませんから、弁理士に依頼するメリットが一つ減る場合といえます。
5.性格的に、書類を作ったり、特許庁とやりとりしたりするのが苦じゃない場合
今更ですが、私は商標登録の専門家で、もう、数え切れない数の商標登録をしてきました。
ただ、もし、私が個人的に何か商標登録をすることになった場合、まず、自分自身ではやらないと思います。
なぜかというと、書類を作って特許庁に提出して、その後特許庁と書類のやり取りをするのが面倒だからです。
恥ずかしながら、私、紙の書類でのやり取りとか、ものすごく苦手なんです。
自宅に特許庁から茶封筒に入った紙の書類が届くことを考えただけで、逃げ出したくなります。
「頼むからメールで済ませてくれないか」と思ってしまいます。
なので、もし私が、何か個人的に商標登録をしたいと思ったら、おそらく、内容だけ自分で決めて、書類の作成と手続きは格安の弁理士事務所に依頼すると思います。
私の個人的な価値観によるイメージですが、単に特許庁への手続きの代行してもらうというだけでも、自分で手を動かすことの面倒臭さをを考えるならば、2万円、いや、3万円くらいまでなら支払っても高くないかなと感じます。

なので、逆にいうと、このような手間が惜しくないという方にとっては、弁理士に依頼するメリットは、少しですが、確実に下がります。
なお、誤解がないように念の為補足しておきますと、私自身はこんな感じの性格ですが、うちの事務スタッフたちは、皆、すごく丁寧で几帳面で優秀な人ばかりなので、どうか皆さま、ご安心してアイリンクに手続きをご依頼ください。
6.登録後にきちんと管理ができる場合
自分で商標登録する場合の結構大きな弱点は、「登録になったら安心してそこで終了になってしまいがちなところ」です。
例えば、商標登録をした後、10年後に更新のタイミングがきます。
弁理士に依頼した場合は、弁理士が10年後に更新時期のご連絡を差し上げるのですが、自分で商標登録した場合は、それがないので、10年後に更新を忘れる会社さんは、非常に多いです。
どれくらい多いかというと、仕事に困っている弁理士が、特許庁のデータベース上でそういう会社さんのリストを集めて、営業のDMを送るくらい多いです。
これ、ある意味当然と言えば当然で、10年後って、会社の状況って全く変わっていますよね。
当時起業したての社長さんだったら、もう偉くなって現場から離れていたりとか、当時の担当者はもういなくなっていたりとか。

なので、更新を忘れるケースもよくありますし、もっと多いのは、10年後の更新のタイミングになった時に、当時の担当者がもういなくて、「そもそも10年前にどういう経緯とか、目的で商標登録をしたのかわからなくなっている」というのは本当にあるあるです。
特に、弁理士を使わずに商標登録した場合って、仮に登録になったとしても、登録内容に何かしら変なところがあったりするんですが、当時の担当者がもういなくて、「なんでこんな形で商標登録したのかよくわからない」というのは、あるあるですね。
なので、逆にいうと、こういうことがきちんと几帳面にできる会社さんは、弁理士に依頼するメリットは減ります。
7.商標登録すること自体が目的の場合
これもまた、わかりづらいですよね。
何か明確な経営戦略上の目的があって商標登録するというよりは、「なんとなく、商標登録できたら何かの役に立つかもしれないし、とりあえず商標申請してみようかな。そして、もし審査でダメだったならば、それはそれでいいや」みたいなケースです。
こんなふうにいうと、「いやいや、井上さん、経営者舐めてるでしょう。素人だと思って馬鹿にしてませんか?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、これ、全然馬鹿になんかしていないですし、そんなにおかしいことでもありません。実際によくあることなんですね。
例えば、私の事務所でも、「断らない商標事務所」という商標を登録しているんですが、これがまさにそんな感じです。
何かものすごく明確な目的があって登録したわけではなくて、「うちの事務所の宣伝のために、何かの役に立つかな?」くらいのノリで登録しました。
まあ、うちの場合、立場的に専門家なので、拒絶理由通知が来てもめげずに、意見書で反論して全力で登録にしましたが、仮に登録にならなかったからといっても、正直何が困るというほどでもないんですね。
これ以外にも、なんか、「一応、やっておいた方がいいかなと思って」くらいの感じで、商標登録するケースは、全然珍しくありません。
こういう場合は、自分で手続きしてみても良いと思いますし、弁理士に依頼するとしても、本当に手続きだけしてくれるような格安のサービスを使ってみるのも手だと思います。
8.事業範囲が国内のみで、なおかつ商標が1個だけの場合
商標登録を難しくする要素はいくつかありますが、外国を視野に入れている場合と、複数の商標がある場合というのは、そのうちの結構大きなものです。
逆にいうと、「国内のみで、商標が1件だけ」という事業者様の場合は、相対的に、弁理士に依頼するメリットが低くなると言えます。
もちろん、この1件の商標を商標登録して確実に守ること自体、決して簡単ではないですから、そこはあくまでも、「相対的に」という意味だとご理解いただければと思います。

弁理士に依頼するメリットが高くなる場合
次に、逆に、弁理士に依頼するメリットが高くなる場合を8個上げて解説します。
以下の8つです。
- 典型的な業種でない場合
- 事業展開のスピードが早い場合
- 事業規模が大きい場合
- 社長ではなく担当者が対応する場合
- きっちり自社で検討し、きっちり内容を把握した上で商標登録したい
- 長期的な視点で商標登録する場合
- 登録可能性の低い商標の登録にチャレンジしたい場合
- 外国で商標登録する場合
もし、先ほどの、弁理士に依頼するメリットが低くなる場合の真逆のパターンもありますし、全く別のパターンもあります。
いずれにせよ、これらに場合は、まだまだ弁理士に依頼するのがおすすめになるかなーというものたちです。
1.典型的な業種でない場合
これは、先程、「弁理士に依頼するメリットが低くなる場合」として挙げた、「昔からあるシンプルな業種の場合」(飲食店とか)の逆パターンです。
代表格は、IT関連の企業とかだと思います。
ただ、最近、もはやいわゆるIT企業でなくてもITを使う時代ですからね。
こういう会社さんの場合、非常に、指定商品役務を適切に記載するのが難しいので、弁理士に依頼するのがおすすめです。
なお、これは2025年5月現在の最新情報ですけれど、最近リリースされたChatGptのo3に事業内容を読ませると、必要な区分の候補を驚くほどの精度で挙げてくれます。
しかも、きちんとネットで公式情報を参照しつつあげてくるんですね。
これは、もう間違いなく、平均レベルの弁理士よりは上のレベルにあります。

2.事業展開のスピードが早い場合
これは、スタートアップ企業さんなんかが該当します。
なぜこのような会社が弁理士に依頼した方がいいかというと、スピードが早いので、ミスが許されないためです。
商標登録では、一度審査で登録NGになって、審査官に反論してもダメで、仕方ないからもう一度申請し直す…なんてことをしていると、あっという間に2年とか3年とか経ってしまうことがあります。
こんなことをしていると、スタートアップ企業の事業展開では全く役に立ちません。
こういうケースでは、手続きのミスが許されないのは当然として、本命の商標が登録NGになった場合に備えて、保険をかけて第二候補、第三候補の商標も同時進行で商標申請したりもします。

このようなスピード重視の企業様からのご依頼で、どう言う提案ができるかは、弁理士の腕の見せ所ともいえます。
3.事業規模が大きい場合
この場合は、弁理士に依頼する一択です。もう、依頼しない理由がないと言ってもいいでしょう。
身もふたもない話になりますが、知財の金銭的価値は、事業規模に比例します。
事業規模が大きな会社が知財のトラブルを起こした時に被る金銭的な損害は、弁理士費の比ではありませんから、迷わず弁理士に依頼しましょう。
むしろ、弁理士の中でも、「なるべく信頼できる、腕の良い弁理士を全力で確保しにいかなくてはならない」といっても過言ではありません。
なぜならば、多くの弁理士にとって中小企業のクライアント様というのは、まだまだメジャーなお客様ではないためです。

このようにお話しすると、「じゃあ、事業規模が大きいというのはどれくらい?」というご質問が聞こえて来る気がします。
これは、非常に言いづらいですね。
本当にあくまで僕の個人的なイメージですが…「年商3億円以上の会社さん」でしょうか。
4.社長ではなく担当者が対応する場合
これはなぜかというと、冒頭でもお話ししましたが、担当者は、10年もすると、いなくなっている可能性があるためです。
私は弁理士をしていて色々なお客様と接しますが、当時商標登録を担当した従業員がいなくなったのち、「商標登録したこと自体忘れている」「10年後に更新があることを誰も知らない」「何の目的で商標登録したのかすら覚えていない」というのは、あるあるです。
うちの事務所に商標登録を依頼した記録すら残っていないことがあります。

なので、この辺りの引き継ぎを含めて余程、社内体制がしっかりしている会社さんでない限りは、従業員が商標登録を担当する場合は、弁理士に依頼した方が良いでしょう。
5.きっちり自社で検討し、きっちり内容を把握した上で商標登録したい
これまたちょっとわかりづらい話ですみません。
きっちり自社でやりたいモチベーションがあるならば、自社でやればいいのではないかと思うかもしれません。
しかし、現実には、自社できっちり検討しようと思えば思うほど、専門家の手助けが必要になります。
なぜかというと、自分で商標登録する場合、類似の商標がなければ登録になること自体は簡単ですが、それがベストな権利内容なのか、自社で判断することは難しいためです。
なので、こういう、自社で高度な部分まできっちり関与していきたい会社さんは、もう弁理士に依頼しないと難しいといえます。
「むしろ、弁理士に依頼する本当の意味って、そういうことだよね」という考え方もありますね。

ところで、こういった、「自社できちんと検討し、判断し、内容も把握したい」というお客様のニーズがですね、2025年に入ったくらいから、急に増えてきたように思います。
それはなぜか、勘が良い方は気がついかもしれないですが、AIの影響です。
ここ半年ほど、弁理士に相談する前に自分でAIである程度調べてくる方が、さらには、弁理士に依頼した後も、弁理士からの提案を受けて、それを元に自分でAIで調べて色々質問される方がちらほら出てきました。
これは、正直なことを言いますと、弁理士としては非常にやっかいです。
なぜかというと、今までは専門家としてベストな提案さえすればよかったのですが、最近は、「どうしてそれがベストなのですか?」「こっちの選択肢はどうですか?」と、徹底的に納得するまで質問される方がいらっしゃいまして、私なんかは、それに逐一丁寧に答えるのですが、そうすると、1案件あたりの時間が通常の倍ほどかかってしまうためです。

話が少し横道にそれましたが、このように、これからの時代、AIを使って、かなりのことを専門家に丸投げではなくて自社でもきっちり検討する時代になってくるかと思います。
そういう場合は、ぜひ弁理士に相談してください。
ただし、その場合は、僕のように自分自身もAIをかなり使っている弁理士でなければ、ニーズに応えてもらえない可能性もあると思うので、その点は注意が必要です。
6.長期的な視点で商標登録する場合
具体的には、弁理士に依頼するメリットが低くなる場合でお話しした、「国内で1件だけ商標登録する」ケースの逆で、複数件の商標を国内外で順々に商標登録していく企業さんの場合ですね。

これは2025年現在の、私の個人的な持論なんですが、弁理士の最大の役割って何かを究極的に考えると、「長期的な視点でクライアントの権利を守るために、最も適切で最もコストパフォーマンスの良い方法を提案し、なおかつその方法を確実に遂行すること」だと思っています。
特に、これからの時代、海外でも知財を守ろうと思うと、もう、完璧な権利を取得するのって不可能なんですよね。お金がかかりすぎます。
なので、商標登録しないと危ない、商標登録しておけば安心、という単純な2択の話ではなくて、スケジュールと費用の優先度合いを考えて、計画的に商標登録していく必要があります。
ここまでいくと、さすがに弁理士を使わないと難しいです。

7.登録可能性の低い商標の登録にチャレンジしたい場合
例えば、類似の登録商標があるような場合ですね。
この場合は、現状、弁理士に依頼する一択だと思います。
ただ、一点、誤解がないようにお伝えしたいことがあるのですが、弁理士の腕で、登録可能性が上がるのは、一度、審査官からNGをもらった後に、意見書や審判請求で反論するステージからの話です。
つまり、世界一の腕の弁理士でも、並の腕の弁理士でも、基本、最初の審査結果は変わらないと考えてください。
かくいう私も、登録可能性が難しい案件のご相談扱う件数は、非常に多い弁理士だと思います。
ただ、こういう場合は、最初に、必ずお客様の意思を確認することにしています。
「これ、登録にならない可能性が高いのをご承知の上で、チャレンジのつもりでやりますか?」と。
とことんやるということであれば、「私は1%でも登録可能性が上がるよう、全力で対応しますが、それでも登録になるかどうかはわからないですが、いいですか?」と。

8.外国で商標登録する場合
外国での商標登録は弁理士に依頼することを強くお勧めします。
法律的な話をしますと、外国の商標登録は、基本的に、その国の代理人が必要になります。
つまり、アメリカで商標登録したければ、アメリカの弁護士なり弁理士なりを挟まないと、アメリカの特許商標庁に直接は手続きできないんですね。

このようにいうと、「あれ?それじゃあ、日本の弁理士は何をするんですか?」というご質問が聞こえてくる気がします。
はい、確かにそうですよね。
「外国の代理人に加えて、なぜ、日本の弁理士を使うのか」というと、ものすごく端的にいうと、「外国の代理人は、日本人のお客様は神様的な価値観からはちょっと想像できないレベルの対応しかしてくれないため」です。
いやむしろ、日本の弁理士が異常に親切なだけで、これが普通なのだと思います。
基本的に、外国の代理人は、ほとんど全てのやり取りが追加費用の対象になり得ますので、当初のお見積りの金額ですませようと思うと、ベストな方法について相談に乗ってもらうときうのはかなり難しくて、基本、自分で意思決定をして、オーダーを伝えるだけにする必要があります。
そうすると、日本の中小企業さんが、直接、外国の代理人にオーダーするというの、かなりの難易度になります。
なので、ほとんどの会社さんは、外国出願では、まずは日本の弁理士にご相談されています。

なお、海外での商標登録については、過去記事で徹底解説していますので、こちらも併せてご覧ください。
この記事を動画で見たい方はYoutubeでも解説しています!
まとめ

今回は、「商標登録は弁理士に依頼する必要がある?」という疑問に、弁理士に依頼するメリットが低くなる場合と高くなる場合に分けてお答えしました。
今回のポイントは以下の通りです。
- 弁理士に依頼するメリットが低くなる場合
-
- 昔からあるシンプルな業種の場合
- 商標検索したけれども、全然類似の商標がヒットしない場合
- ほぼ、自分一人で事業をしているとき
- 仮に登録NGになったとしても、商標を変えるつもりはない場合
- 性格的に、書類を作ったり、特許庁とやりとりしたりするのが苦じゃない場合
- 登録後にきちんと管理ができる場合
- 商標登録すること自体が目的の場合
- 事業範囲が国内のみで、なおかつ商標が1個だけの場合
- 弁理士に依頼するメリットが高くなる場合
-
- 典型的な業種でない場合
- 事業展開のスピードが早い場合
- 事業規模が大きい場合
- 社長ではなく担当者が対応する場合
- きっちり自社で検討し、きっちり内容を把握した上で商標登録したい
- 長期的な視点で商標登録する場合
- 登録可能性の低い商標の登録にチャレンジしたい場合
- 外国で商標登録する場合
今回の記事が、弁理士に依頼するかどうか、迷っている企業の皆様の検討の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
アイリンク国際特許商標事務所のホームページでは、特許、商標、著作権などの知的財産権について、ビジネス上必要な知識だけを厳選して掲載しています。
ぜひ、他の記事もご覧ください。
また、もっと具体的に相談したい方は、お問い合わせフォームから、私のオンライン個別相談をお申し込みください。