生成AIの進化により、文章作成や要約、質問応答といった処理を人に代わって行う技術が、急速に実用段階へと進んでいます。
このような技術を利用している方も多いのではないでしょうか。
生成AIを文書の作成や要約などに使用する技術が実用段階となったことから、生成AIを利用した製品やサービスを提供する企業が増えてきました。
これまでコンピュータやソフトウェアに強い企業が独自にプログラミングして販売していた各種処理ソフトウェアやサービスも、生成AIを使用すればプログラミングに詳しくない企業が開発販売することが可能です。
このような企業の中には、「うちの生成AIを利用した技術は特許になるんじゃないか?」と考え、特許の申請(出願)をする企業も増えてきています。
近年、各国特許庁への生成AI関連出願が増加しており、生成AI分野で特許が成立する事例も目立つようになってきました。
とはいえ、特許に慣れていない企業が特許の申請(出願)をし、特許になるかどうかの判断(審査)を受け、特許を成立させるのはとても大変です。
そもそも、「どのような技術(発明)であれば、生成AIに関する特許として認められるのか」は判断が難しいと言えるでしょう。
そこで、今回は私たちもよく利用するWEB申請フォームの入力を省力化する東急不動産ホールディングス株式会社の特許第7771323号「WEB画面入力支援システム及びプログラム」をわかりやすく解説します。
特許第7771323号の要約

特許第7771323号は、「WEB画面入力支援システム及びプログラム」に関する発明です。主な目的は、WEB上の申請フォームへの入力作業を効率化し、利用者の負担を軽減することです。
私たちも普段からWEB申請システムをよく利用しています。
申請する内容や種類により申請フォームが多くあり、「どれを選べばいいのか分からない」「何を入力すればいいのか分からない」というようなことが多くあるのではないでしょうか。
たとえば、WEBサイトから希望の申請をしようとしたところ、希望する申請以外の申請について多くの申請フォームがあったりすると、どれが希望する申請の申請フォームかわからないことがあると思います。
この発明の大きな特徴は、過去に行われた申請フォームへの入力内容や、申請フォームに添付されているファイル、申請フォームのリンク情報などを生成AIに読み込ませ、それらを要約した「概要データ」を作成・蓄積しておくことです。
WEB申請を利用する人(ユーザー)は、新たな申請を行う際に、生成AIが作成・蓄積していたファイルやリンクの「概要データ」を基に自分が行う申請に一致している申請フォームを選択します。
さらに、本システムでは、生成AIとは別の学習AIが各ユーザーに合わせて適切な入力内容を生成し、申請フォームに自動反映できます。
単なる自動入力や履歴呼び出しではなく、生成AIが「概要データ」を生成・蓄積しておき、ユーザーは「概要データ」から申請フォームを選択し、学習AIが申請フォームの入力内容も生成する入力支援である点が、この特許の大きな特徴です。
請求項1〜4の解説
特許第7771323号の請求項を見てみましょう。
この特許には、【請求項1】~【請求項8】と全部で8つの請求項があります。
そのうち、【請求項1】~【請求項4】がWEB画面入力支援システムに関する請求項、【請求項5】~【請求項8】がプログラムに関する請求項です。
ここでは、【請求項1】~【請求項4】がWEB画面入力支援システムに関する請求項を見ていきます。
【請求項1】
WEB画面の申請フォームへの入力を支援するWEB画面入力支援システムであって、
複数種類の申請フォームの基本データと対応する入力データ、添付ファイルがある場合には添付ファイル及びリンク先の情報がある場合にはリンク先の情報を生成AIに要約させて複数の概要データを取得して記憶しておき、前記複数の概要データのいずれかが入力者端末によって選択されると、当該選択された概要データに対応する申請フォームを前記入力者端末に表示出力する入力支援サーバを有することを特徴とするWEB画面入力支援システム。
【請求項2】
申請フォームに対する過去の入力者の特性データと入力データを学習して学習済モデルを生成する学習AIを備え、
前記入力支援サーバは、前記学習AIに前記申請フォームに対する過去の入力者の特性データと入力データを出力して学習させ、前記入力者端末からの申請を行う入力者の特性データを前記学習AIの学習済モデルに入力して前記入力者の入力データを出力させて、前記申請フォームに設定することを特徴とする請求項1記載のWEB画面入力支援システム。
【請求項3】
前記入力支援サーバは、申請フォームと入力データを生成AIに読み込ませて、承認者端末からの入力項目に対する質問を前記生成AIに出力し、前記生成AIから前記質問に対する入力項目の回答を前記承認者端末に出力することを特徴とする請求項1又は2記載のWEB画面入力支援システム。
【請求項4】
前記入力支援サーバは、申請フォームと過去の入力データ、添付ファイルがある場合には添付ファイル及びリンク先の情報がある場合にはリンク先の情報を生成AIに学習させて申請フォームの承認に関する動画を生成させることを特徴とする請求項1又は2記載のWEB画面入力支援システム。
こうしてみると少し難しいですね。
請求項1〜4は、この発明の基本構成から具体的な処理内容までを段階的に定義しています。
全体としては、「生成AIが過去データなどを集めて要約した概要データを作る」「WEB申請する人(ユーザー)が概要データを選択する」「選択した概要データに応じた申請フォームを表示する」「各ユーザーに応じた入力支援をする」「各申請フォームの承認を支援する動画を作成する」という一連の流れをシステムとして構成しています。
各請求項をもう少し詳しく解説します。
請求項1の概要
請求項1では、WEB画面の申請フォームへの入力を支援するシステムの基本構成が定義されています。
生成AIが、複数の申請フォームに対応しており、基本データと対応する入力データそれぞれの申請フォームに関する基本データと対応する入力データ、添付ファイルやリンクを要約し、「概要データ」として記憶する点が特徴です。
入力者(申請を行う人:ユーザー)はこの「概要データ」から自分が申請すべき申請フォームを選択します。
請求項2の概要
請求項2では、入力者が選択した申請フォームに関して、生成AIとは別に学習AIを備えて、学習AIが、過去の入力者の特性データや入力内容を学習し、今回の入力者に入力された特性データを基に、入力内容を出力します。
学習AIは、過去の入力者の特性データや入力内容を用い、各入力者に最適な申請フォームの入力内容を申請フォームに出力し、入力者の入力を支援します。
このように各入力者に最適な入力内容が申請フォームに出力されると、入力者の入力の手間が省け、かつ誤入力の防止も可能です。
請求項3の概要
請求項3からは申請フォームを承認する承認者の入力支援を行う内容の請求項です。
ある申請フォームで申請されても承認者がその申請フォームの内容に詳しいとは限りません。
そこで、請求項3では承認者側も申請フォームの内容を生成AIに質問できるようにしています。
請求項4の概要
請求項4では、生成AIが動画を作成できることを生かし、承認者に各申請フォームの承認方法の動画を提供することを挙げています。
請求項1〜4が解決しようとしている課題
請求項1〜4が共通して解決しようとしている課題は、WEB申請における入力作業の煩雑さと非効率性です。
従来のWEB申請では、以下のような問題がありました。
- 複数の申請フォームから希望する申請フォームを見つけ出すのに手間がかかった
- 過去の申請者の申請内容をうまく活用できない
- 承認者側も、申請フォームの種類が増えると、承認作業が煩雑になる
- 承認者が申請された申請フォームの入力内容に詳しいとは限らない
- 承認者は申請フォームの入力内容が適したものかどうか、その都度確認する必要がある
これらの課題は、WEB申請を行う入力者(ユーザー)の負担を増大するだけでなく、申請を受け付ける側にとっても確認作業の増加につながります。
本発明では、生成AIを活用し、過去データを有効活用することでこうした課題の解決が可能です。
請求項1〜4の構成要素の詳細
明細書も踏まえて、各構成をより詳しく解説します。
請求項1〜4のWEB画面入力支援システムに共通する構成要素は、大きく次の4つです。
- 申請フォーム・入力データの管理および記憶
- 生成AIによる概要データ生成および記憶
- 入力者(申請を行う人:ユーザー)による概要データ選択
- 入力者毎に適した内容を反映した入力支援
さらに、請求項3の承認者側の入力支援では「生成AIによる承認者の質問に対する回答の生成」、請求項4の承認者側の入力支援では「生成AIによる申請フォームの承認に関する動画の生成」を構成要素としています。
順番に解説します。
1.申請フォーム・入力データの管理
まず、複数の申請フォームと、それに対応する過去の入力者の入力データ、添付ファイル、リンク情報などを管理および記憶します。
重要なのは、単にデータを保存するのではなく、「どの申請フォームに紐づく情報か」を明確に管理および記憶している点です。
社内での申請フォームの例としては、「不動産の賃貸契約申請」「引っ越し助成金の申請」「建築確認の届け出」などがあり、それぞれに過去に入力された大量のデータ・添付ファイルがあります。
この特許では、過去に入力された大量のデータ・添付ファイルを「不動産の賃貸契約申請」や「引っ越し助成金の申請」、「建築確認の届け出」のどの申請フォームに基づくものであるかを整理して紐づけ管理および記憶しています。
2. 生成AIによる概要データ生成および記憶
次に、これらの情報を生成AIに読ませて、申請内容を要約した概要データを生成します。
この概要データは、後の検索や選択の基準となる重要な情報です。
上記の社内申請の例で考えてみましょう。
- 住宅賃貸契約(大阪府)
- 引っ越し助成金(ファミリー向け・東京都)
- 建築確認(用途:店舗・3階建て)
簡単な例ですが、このように各申請フォームごとにまとめた要約である「概要データ」を
生成および記憶しておきます。
3.入力者(申請を行う人:ユーザー)による概要データ選択
入力者は、端末から申請フォームを検索します。
このとき、この特許では申請フォームの名前や番号で検索するのではなく、生成された複数の概要データを検索対象としています。
このため、入力者が申請フォームの名前や番号を覚えていなくても、概要データの内容から該当する申請フォームを探し出すことが可能です。
入力者は所望の申請フォームに該当する概要データを選択します。
上記の例で考えてみましょう。
入力者は転勤に伴って東京都へ妻と子供2人の家族で引っ越しすることとなり、引っ越し助成金を申請する場面を想定します。
引っ越し助成金だけで検索すると、複数の候補が表示されました。
ここで、概要データを見れば「東京都へ家族で引っ越し」する場合に提出すべき申請フォームが分かります。
4.入力者毎に適した内容を反映した入力支援
この特許では、ユーザーが概要データを選択すると、学習AIがユーザー毎に適した入力データを申請フォームに反映します。
ユーザーは、最小限の修正を行うだけで申請を完了できます。
ここでも上の例で考えてみましょう。
以前にも他の社員(入力者)が同じような家族構成で他府県から東京都へ引っ越しをしたことがあったとしましょう。
学習AIは、他の社員(入力者)の入力情報に基づいて、異なる入力者でも同様の記載となる箇所を申請フォームに出力します。
入力者には、ある程度情報が入力された状態の申請フォームが表示されます。
異なる社員でも共通の入力項目は再入力不要となり、入力ミスも防止可能です。
5.生成AIによる承認者の質問に対する回答の生成
請求項3では承認者側の入力支援を行っています。
先ほども述べたように、承認者側には以下のような課題があります。
- 承認者側も、申請フォームの種類が増えると、承認作業が煩雑になる
- 承認者が申請された申請フォームの入力内容に詳しいとは限らない
- 承認者は申請フォームの入力内容が適したものかどうか、その都度確認する必要がある
そこで、請求項3では、申請フォームだけではその内容が分かりにくい場合や各申請事項の意味が分かりにくい場合に承認者が生成AIに質問できるようにしています。
生成AIに質問するのは、きわめて普通のことです。
しかし、この特許では「WEB申請フォームに関して申請フォームごとに情報をまとめて管理および記憶」しており、生成AIは「この情報を使って回答を生成している」ので技術的特徴があるとされています。
この特許の明細書(発明の詳細な説明)に記載されている、決裁申請書フォームを例にとりましょう。
決裁申請書フォームには、基本情報(決裁受付番号、決裁日、申請会社名、申請部署名、申請者氏名等)、決裁区別(新規、変更、確定、廃止等)、公開区別(公開、期限付非公開、永久非公開)等を記載する必要があります。
しかし、決裁に慣れていない人が承認者だった場合、「各項目について詳しく確認したい」「過去の例を知りたい」と思うかもしれません。
そのような場合、この特許の承認者側の入力支援は非常に有益です。
質問すれば、生成AIが一般的な回答ではなく、この企業のパターンに合わせた回答を生成してくれます。
これは、生成AIがこの企業の過去データを利用して回答しているためです。
このような入力支援は、承認者側の負担軽減や確認ミスの防止に繋がります。
6.生成AIによる申請フォームの承認に関する動画の生成
請求項4でも承認者側の入力支援を行っています。
生成AIの動画作成機能を利用して、申請フォームの承認に関する動画を生成させています。
この動画も一般的な承認処理に関する動画ではなく、この企業の各申請フォームに合わせた動画です。
これは、生成AIがこの企業の過去データを利用して動画を生成しているためです。
このような入力支援は承認者側の負担を軽減し、処理のミスも防ぎます。
請求項1〜4における生成AIの役割
この特許において生成AIは、発明の中核を担っています。
生成AI自体を改良しているわけではありません。
この特許では、生成AIの機能をうまく活用しています。
この特許では、生成AIが「要約を作れること」学習AIが「適切な値を推察できること」、生成AIが「質問に回答できること」「動画を生成できること」を活用しています。
特に重要なのは、生成AIが「要約を作れること」学習AIが「適切な値を推察できること」です。
1つ目の「要約を作れること」は、生成AIが申請フォームの内容を理解し、添付ファイルやリンク情報もそれに紐づけて全体像を把握した上で要約となる「概要データ」を生成していることを示します。
2つ目の「適切な値を推察できること」は、入力者が選択した概要データに対応する申請フォームの属性として同様な入力者が入力した過去データから、学習AIが今回の入力者に適した値を推察し、申請フォームに反映させます。
すなわち、今回の特許では生成AIに学習させる内容を予め限定しておくことで、生成AIは入力者が欲しい情報を的確に提示し、学習AIが各入力者に適した値を推察できることとなります。
この特許では、生成AIは中核的な役割を担っています。
既存の生成AIをそのまま利用しながらも、使い方を工夫することで新たな技術的価値を生み出しています。
この発明から見える生成AIを活用した発明のコツ

本特許から読み取れる生成AIを活用した発明のコツとしては、以下のような点が挙げられます。
- AIを単なる自動化ツールとして扱わない
- 「意味を理解できる」「要約を作れる」といったAIの強みを活かす
特に、「過去データを単にそのまま記憶させる」のではなく、「予めAIで加工して使いやすい形に変換しておく(概要データを作成しておく)」という発想は、他分野にも応用可能です。
この発明を応用したAI活用発明の例
この技術思想は、さまざまな分野で応用できます。
- 社内稟議書や報告書の作成支援
- 契約書作成時の過去案件活用
- 医療・介護分野での書類作成支援
- ECサイトでの商品登録支援
いずれも、過去データを生成AIで要約し、次の作業に活かす点で共通しています。
本特許の請求項の立て方について
この特許では、【請求項1】には「要約(概要データ)を作成する」「入力者が概要データを選択する」ことだけを開示し、【請求項2】で「入力者毎に適した内容を反映する入力支援」を開示しています。
さらには、【請求項3】で承認者に対する回答生成、【請求項4】で承認者向けの動画生成を開示しています。
すなわち、最終的には「入力者に概要データから申請フォームを選択させ、申請フォームには各入力者に応じたデータを予め入力して提示し、承認者には申請フォームに関する質問に回答し申請手順の動画も提供する」ことが推測可能です。
この特許の請求項のいいところは、最初から全部組み合わせて請求項にするのではなく、分けられるものを分け、組み合わせが可能なものを組み合わせて請求項としているところです。
現時点では、これらの請求項はいずれも特許として成立しています。
仮の話ですが、もし、【請求項1】が拒絶され(特許にできないと判断され)たらどうなるでしょう。
【請求項1】が拒絶された場合でも、入力支援と組み合わせた【請求項2】は特許になるかもしれません。
【請求項1】と【請求項2】の引用項(従属請求項・従属クレーム:主となる請求項に追加条件を加えた請求項)である【請求項3】と【請求項4】の場合はどうでしょう。
【請求項1】および【請求項2】が拒絶されたとしても、承認者側の入力支援を加えた【請求項3】と【請求項4】は特許になるかもしれません。
各請求項を見て頂くと分かるように、【請求項1】が基本の部分かつ最も広い範囲を表しています。
この特許では、基本の【請求項1】に段階的に機能を付け加えて【請求項2】~【請求項4】を作成しています。
この特許のように、最終的な製品やサービスを技術ごとに分け、段階的な請求項を作成するのはおすすめの方法です。
自社の業務システムに生成AIを組み込む場合も、「過去データをどう前処理しておくか」「どの単位で要約・分類させるか」といった設計段階の工夫が、そのまま特許の新規性・進歩性の根拠になります。
まとめ

今回紹介した特許は、WEB申請フォームの入力支援を生成AIにより行う発明です。
これにより入力者側の入力作業を効率化し、申請ミスも防ぎます。
承認者側の入力支援も行っており、申請者側の負担の軽減や承認ミスも防ぐことが可能です。
特許第7771323号では、生成AI自体を改良したり高度化したりしているわけではありません。
生成AIの機能を有効に利用しています。
この特許では、生成AIに自社のデータだけを学習させて申請フォームを理解させ、学習AIで申請フォーム毎のデータを学習させて、申請フォーム毎に要約(概要データ)を生成させています。
入力者は、概要データを検索して所望の申請フォームを探し出すため、申請フォームの番号や名称が分からなくても簡単に申請フォームを探し出すことができます。
みなさんの周りにも、日頃の業務改善のために生成AIを使う例が多くあると思います。
本特許のように生成AIに学習させる内容を工夫したり、生成AIの機能を使ってデータを所定の形に予めまとめたりなどしていませんか?
そういうところに、特許のタネが落ちているかもしれません。
是非、一度考えてみてください。
生成AIの技術はまだ新しい技術です。
前例が少ない分野ですので、「この技術は発明なのか?」「これを出願(申請)したら特許になる可能性はあるのか?」と疑問をお持ちの方、ご自分で判断するのは難しいと思います。
前例が少ない生成AIの技術こそ、出願前に弁理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
最後までお読みいただきありがとうございました。

