近年、AI関連技術、なかでもChatGPTに代表される生成AIは、産業用途にとどまらず、個人の利用シーンにまで急速に広がっています。
チャットボットのような回答生成装置などは特に身近な例でしょう。
生成AIを活用する企業や個人が増える中で、新たな技術やサービスが次々と生まれ、それらの中には発明として評価される技術も数多く登場しています。
こうした流れを受けて、生成AIを活用した発明を「特許として保護したい」と考える動きも活発化しており、生成AIに関連する特許出願は増加傾向にあります。
その結果、生成AI分野で特許が成立する事例も目立つようになってきました。
この記事をお読みの方の中にも、「どのようなAI技術が特許として認められるのか」と疑問や関心をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
そこで、今回は私たちの身近な存在である回答生成装置などに活用される楽天グループ株式会社の特許第7749093号「質問に対する回答を模擬生成する生成装置、生成方法、ならびに、プログラム」をわかりやすく解説します。
特許第7749093号の要約

特許第7749093号は、質問に対する回答を生成AIで模擬生成する生成装置・生成方法・プログラムに関する発明です。
現代では、多数のユーザーに対するアンケート調査やインタビューはインターネットを通じたものが一般的です。
しかし、いきなり人間にアンケートやインタビューを実施すると効率よく回答が得られない可能性があります。
例えば、集まった回答を見て、質問の表現をこうしておけばよかったなどと質問の改善点に気付くことがあります。
このような場合、質問を修正して、再度調査しなければならず、効率がよくありませんでした。
このようなことから、生成AIにアンケートの質問文やインタビューの質問を入力し、予め模擬回答を生成して実際に質問する際の表現や内容を検討したいという要望があります。
この発明は、ユーザーの特性に合わせて生成AIに模擬回答を生成させ、その模擬回答から質問の有効性を評価するものです。
本発明の特徴は、生成AIを単なる回答生成エンジンとして使うのではなく、「回答可能な【候補者】を構造的に整理し」、「その集合を代表する【代表者】を定義し」、「その代表者として生成AIに回答を生成させる」という構成を採用している点にあります。
これにより、様々なユーザー特性に対応した回答が得られるため、回答の多様性・比較可能性・制御性を高めた質問応答システムを実現することができます。
請求項1の解説
特許第7749093号の請求項1を見てみましょう。
【請求項1】
質問に回答可能な候補者を、該候補者の特性情報に基づいて複数のクラスタに分類する分類部と、
前記分類された各前記クラスタに含まれる前記候補者の前記特性情報に基づいて、各前記クラスタをそれぞれ代表する代表者の特性を示す代表者特性を求める算出部と、
質問文を受け付ける受付部と、
各前記クラスタについて求められた前記代表者特性を有する代表者を模擬する生成AIに、前記受付部により受け付けられた質問文に対する回答を模擬生成させる生成部と、
を備える生成装置。
請求項だけを見ると、少し難しく感じますよね。
この発明の肝は、生成AIに回答を作らせる際に、回答する人物を設定してその人物として回答させることです。
そのために、単なる「生成AIによる質問応答」ではなく、回答する人物(候補者)を複数のクラスタに分類して構造的に扱い、クラスタ(年齢、性別、家族構成等による分類)の代表者として生成AIに模擬回答を行わせています。
特に重要なのは、「質問 × 回答者」という関係を技術構成として扱っている点です。
これにより、生成AIの利用が「発明の一部」として位置付けられ、単なるAI活用との差別化が図られています。
請求項1が解決しようとしている課題
「特許第7749093号の要約」でも解説したように、多数のユーザーにアンケートやインタビューを行う際に、予め生成AIに模擬回答を生成させてアンケートやインタビューの内容や質問文の表現が適切であるかどうかを検討したいという要望が多くあります。
これまで、ユーザーの代わりに生成AIに回答させるという発明はありました。
この発明では、生成AIがパーソナライズドAIであり、複数のパーソナライズドAIにより模擬回答を生成しています。
複数のパーソナライズドAIはそれぞれ違う個人の表現を学習しており、複数人の模擬回答が得られることが特徴です。
しかしながら、この方法では以下のような点が課題になっています。
- 回答が偏る
- 回答の評価・比較が難しい
順番に解説します。
回答が偏る
複数の生成AI(パーソナライズドAI)のそれぞれが異なる個人の表現を学習しているとはいえ、生成AIの数および表現を学習させる個人が年齢層や性別、職業などどの位の範囲を網羅しているかで、回答の傾向が決まります。
例えば、生成AIの数が多くても大多数が男性であれば男性寄りの意見になり、生成AIの数が少なければ反映できる人物像が少なくなります。
いずれにしても回答が偏るリスクがあるといえます。
回答の評価・比較が難しい
先ほども申し上げましたが、学習させる個人をどのように設定しているかで回答の傾向が決まります。
偏った設定になっている場合、回答も当然偏ったものとなり、その評価や比較はあまり意味を成さず、回答の評価・比較が難しいという点が課題です。
これは、生成AIが持つメリットがデメリットとして作用している1つになります。
生成AIは、全人類の情報を持っているが故に、質問や設定があいまいだったり、おおざっぱだったりすると、回答の振れ幅が大きくなり、結果的に回答にばらつきが生じます。
請求項1の課題解決方法
請求項1では、回答候補者をクラスタ化し、クラスタごとに代表者を決め、この代表者として生成AIに模擬回答を生成させています。
様々な回答候補者の代表者を設定できるため、回答の偏りを解決し、回答の評価・比較をしても正当な結果が得られるようにしています。
請求項1の構成要素の詳細
明細書も踏まえて、各構成をより詳しく解説します。
1.分類部
分類部の技術的な役割は、回答可能な候補者を分類して構造化することです。
ある質問に回答可能な候補者を、専門性・属性・実績などの特性情報に基づいて複数のクラスタに分類します。
この分類は、単なる前処理ではなく、回答生成の前段で「誰が答えるのか」を技術的に定義する工程です。
すなわち、 生成AIに「誰として答えさせるか」を設計対象にしている点が、発明の中核です。
2.算出部
算出部の技術的な役割は、クラスタ代表者を定義することです。
各クラスタに含まれる候補者の特性情報から、「クラスタ代表者特性」を算出します。
この代表者は実在の人物である必要はなく、統計的・抽象的な代表像でも構いません。
この特許では、個別データではなく「集合としての代表者」を定義し、生成AIの入力条件にしている点が技術的なポイントとなります。
3.受付部
受付部の技術的な役割は、質問入力のインターフェースとして、ユーザーから質問文を受け付けることです。
一見すると単純ですが、「質問 × 代表者特性」を結び付ける処理の起点として重要な役割を果たします。
4.生成部(生成AI)
生成部(生成AI)の技術的な役割は、代表者として模擬回答を生成することです。
各クラスタの代表者特性を条件として、生成AIに模擬的な回答を生成させます。
ここで生成AIは、単に質問に答える存在ではなく、代表者を演じる存在として機能します。
この特許では、 条件付き人格生成(ペルソナ付き生成)を実現している点が、非常に重要です。
請求項1における生成AIの役割
請求項1における生成AIは、生成部の中で代表者を模擬して回答を生成しています。
生成AIを生成部に組み込むことで「生成AIで回答を作る」という単純な生成AIの利用ではなく、発明の「技術構成の一要素」として扱っています。
この発明から見える 生成AIを活用した発明のコツ

本特許から学べる生成AI特許の重要なポイントは次の通りです。
- 生成AIそのものを発明にしなくてもよい
- 生成AIを「どの工程で」「どの役割として」使うかを検討し、技術要素とする
- 生成AIに「誰として生成(回答)させるか」「どの条件で生成(回答)させるか」が発明になる
これからは生成AIに単純作業させるだけではなく、方向性をもった作業をさせるために生成AIへの入力情報(生成AIに処理を指示する際に生成AIに入力する情報)の構造設計が大切になるでしょう。
さらには、生成AIを発明の技術要素の一部に組み込むことで「単なる生成AIの利用」ではなく、「その作業のために生成AIを利用する」発明とすることができ、新規性や進歩性を満たすことができると考えられます。
この発明を応用したAI活用発明の例
本特許のアイデアを別分野に応用すると、以下のような発明につながります。
いずれも、「代表者として生成AIに答えさせる」という構造を応用できます。
医療相談AI
専門分野別に医師クラスタを形成し、各専門分野の代表者として診断支援コメントを生成する発明。
教育支援AI
学習者レベル別に教師モデルをクラスタ化し、代表教師として解説を生成する発明。
企業内QAシステム
部署・職種別に知識クラスタを作成し、代表者AIが回答する発明。
まとめ

今回紹介した特許は、生成AIによる模擬回答の偏りや回答の比較・評価の結果が正当なものとなるようにした発明です。
生成AIそのものを高度化する発明も重要です。
その一方で、今回の特許のように「生成AIがある特定の属性を持つ人物になりきって回答できる」ことに着目し、「生成AIに処理を指示する際に生成AIに入力する情報(人物の属性情報)」を工夫した発明で特許を取得できるチャンスが多くあります。
この技術は、「生成AIの適正チューニング」ともいえるでしょう。
生成AIへのプロンプトを作成する際の条件を工夫することで、生成AIが依頼者が希望する適正な処理を行うようにチューンしているともいえます。
生成AIへの入力情報としては、様々な形態があります。
例えば、前回解説した特許第7742475号では、「生成AIが表などをテキストデータだけでなく、画像として認識できる」という点に注目して、「表などを画像データとして生成AIに渡す」ことが特徴です。
みなさんも生成AIを利用する際に「プロンプトに条件を課す情報」「生成AIに渡すデータの形状」など入力情報を工夫していませんか?
「当然」だと思っている工夫の中に、まだ特許化されていない発明が存在するかもしれません。
是非、一度考えてみてください。
生成AIの技術はまだ新しい技術です。
前例が少ない分野ですので、「この技術は発明なのか?」「これを出願(申請)したら特許になる可能性はあるのか?」と疑問をお持ちの方、ご自分で判断するのは難しいと思います。
前例が少ない生成AIの技術こそ、出願前に弁理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
最後までお読みいただきありがとうございました。

