AI関連技術は急速な進化を遂げ、ビジネス・製造・医療・金融など、あらゆる領域で活用が進んでいます。
特に生成AI(Generative AI)や大規模言語モデル(LLM)などは、サービスや装置に導入されており、多くの企業がAI発明の特許化に取り組むようになりました。
AI関連技術は、大企業の製品やサービスだけでなく、みなさんの身近な製品にも活用されてきています。
写真や画像の編集アプリやAIレジなどは、みなさんも目にすることがあると思います。
AIが身近な製品に使用されるようになったことから、これまで発明や特許にあまり携わった経験のない企業が発明をしたり、この発明が特許になるように申請(特許出願)をしたりする機会が増えました。
特許の制度とは「発明した人が新しい技術に基づいた発明を公開する代わりに、その人に一定期間の独占権を与えて、その『新しい技術に基づいた発明』を保護する制度」です。
これにより、今までなかった新しい技術よりなる発明が特許で保護されます。
つまり、特許において「新しい」ことは非常に重要です。
特許にしていいかどうかを判断するとき(審査のとき)には、前回の記事で解説した「新しいかどうか」を判断する「新規性」を検討します。
さらには、「当業者なら容易に想到できかどうか」言い換えれば「その分野に従事している人なら、思いつく技術かどうか」を判断する「進歩性」も検討します。
この進歩性が、AI関連技術から生まれるAI関連発明の審査時の大きな壁です。
AI関連技術は他技術と組み合わせやすく、 「人間がやっていた作業をAIに置き換えただけ」 「一般的な課題(精度向上・高速化)を解決するだけ」 と判断されやすいため、容易に想到できる(進歩性なし) とされるケースが多いといえます。
AI関連技術は通常の製品や装置などに関する技術と異なり、処理の技術になるため、目に見えない技術です。
そのため、「当業者なら容易に想到できたかどうか」の判断が非常に難しい技術分野です。
特にこれまで発明や特許にあまり携わった経験のない企業にとってはさらに判断が難しいといえるでしょう。
そこで、今回はAI関連技術から生まれるAI関連発明における「発明が当業者なら容易に想到できたかどうか」という判断基準(進歩性)を分かりやすく解説します。
具体的なNG例とOK例を挙げて解説し、その上で失敗しないためのポイントも解説します。
AI関連技術を扱っている企業様の今後の特許対策のお役に立てば幸いです。
AI関連特許における進歩性とは?

みなさんが新たな技術を開発して発明が生まれ、「この発明を他の人や企業に使われないようにしたい」と特許出願(特許の申請)をしたとしましょう。
特許出願された発明は、「【AI関連特許】取得で失敗しないために! 専門家がやさしく解説する発明該当性とは?」でもお話ししたように、出願から3年以内に出願人からの「審査請求」を受けた後、特許庁による特許審査が行われます。
特許審査では、「【AI関連特許】取得で失敗しないために!出願動向と特許取得の要件&記載要件を徹底解説」で解説したように「特許にしてもいいかどうか」を判断するための審査を色々な面から以下のような要件に基づいて行います。
- 発明であること(特許法第29条第1項柱書)
- 産業上の利用可能性があること(特許法第29条第1項柱書)
- 新規性を有すること(特許法第29条第1項第1~3号)
- 進歩性を有すること(特許法第29条第2項)
- 先願であること(特許法第29条の2、第39条)
- 拡大先願に該当しないこと(特許法29条の2)
- 公序良俗を害する発明でないこと(特許法第32条)
前々回の記事でお話しした最も基本となる「発明であること(発明該当性)」をクリアした発明は、その後の「新規性」の審査に進みます。
「新規性」については「【AI関連特許】取得で失敗しないために! AI技術の新規性が認められる条件と実例をやさしく解説」で解説していますので、ぜひご一読ください。
「新規性」をクリアした発明について、「当業者なら容易に想到できるかどうか」を判断する「進歩性」が検討されます。
これは、「この発明は一見新しいけれど、この分野の技術の知識がある人や会社(当業者)なら思いつく発明ではないか?」という点から発明を検討する項目です。
進歩性とは?
特許法第29条第2項では、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下この部において「当業者」という。) が先行技術に基づいて容易に発明をすることができたときは、その発明(進歩性を有していない発明)について、特許を受けることができない」ことを規定しています。
進歩性は、「専門家から見ても一歩先を行く技術的特徴があるか?」 を評価する基準といえます。
理由は明確で、「当業者であれば簡単に思いつく発明を特許にしてしまうと、技術の進歩に役立たない」「後発の技術の発展や発明を妨げる」ためです。
このような理由で「進歩性」は、特許にしていいかどうかの判断要件に入っています。
新規性と進歩性

進歩性は新規性とかかわりが深い項目です。
関係を図1に示します。

図1
引用:特許庁 漫画審査基準~AI・IoT編 進歩性(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/comic_ai_iot/04.pdf)
前回の記事でも解説したように、「新規性」は「その発明が新しいかどうか」を判断する要件です。
簡単に言えば「今まで無かったもの」です。
図1に示すように本発明が引用発明と比較して相違点があり、新規性があったとしましょう。
次に、「進歩性」を判断します。
「進歩性」は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が先行技術に基づいて容易に発明をすることができるかどうか」を判断する要件です。
「今まであったものから創造することができない新しいもの」であれば、進歩性があるといえます。
新規性があっても、今までの技術と比較して大きな相違点が無ければ進歩性がないと判断されて、特許になりにくくなります。
あらゆる技術が発展し、高度な技術となっている現代では「進歩性」が問題となり特許にならないケースが多いといえます。
新規性だけでは特許にならない、新規性と進歩性があってはじめて特許になる可能性があるという点が重要です。
では、肝心の進歩性はどのように判断されるのでしょう?
進歩性の判断
進歩性は判断が難しい一方、審査官によってその判断がばらついてしまうのを防止するために、審査基準といった形で審査のやり方の基準が規定されています。
その進歩性は二段階に分けて判断されます。
図2にその手順を示します。

図2
引用:特許庁 漫画審査基準~AI・IoT編 進歩性(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/comic_ai_iot/04.pdf)
- 出願した発明(本願発明)の「進歩性が否定される方向に働く要素」を検討します。「進歩性がない」と判断する要素についての検討です。
- 出願した発明(本願発明)の「進歩性が肯定される方向に働く要素」を検討します。「進歩性がある」と判断する要素についての検討です。
順番に解説します。
「進歩性が否定される方向に働く要素」の検討
「進歩性が否定される方向に働く要素」の検討では、これまでの技術を基に「当業者が本願発明に容易に辿り着けるか?」を判断します。
審査では、これまでの技術を先行技術といい、先行技術として先に出願されている発明や論文・文献を用います。
この中で先行技術となる発明を「引用発明」といい、その中でも最も本願発明に近いものが「主引用発明」です。
その他の先に出願されている発明は「副引用発明」です。
「進歩性が否定される方向に働く要素」を検討する際は以下の2つについて検討します。
- 「主引用発明に副引用発明を適用する動機付け 」の検討
- 上記の動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素「設計変更等」「先行技術の単なる寄せ集め」ではないかどうかの検討
順番に解説します。
1.「主引用発明に副引用発明を適用する動機付け」の検討
主引用発明に副引用発明を適用する動機付けがあるかどうかは、動機付けとなる4つの観点から見て総合的に判断されます。
4つの観点は以下の通りです。
- 技術分野の関連性
- 課題の共通性
- 作用、機能の共通性
- 引用発明の内容中の示唆
技術分野が類似していたり、同じような課題を解決しようとしている技術を組み合わせることは、当業者であれば、考え付くでしょう。
つまり、当業者であれば、これらの動機に基づいて、主引用発明に副引用発明を適用する可能性が高いといえるでしょう。
2.「設計変更等」「先行技術の単なる寄せ集め」の検討
次に、上記の動機付け以外に進歩性が否定される方向に働く要素を検討します。
まずは、「設計変更等」です。

図3
引用:特許庁 漫画審査基準~AI・IoT編 進歩性(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/comic_ai_iot/04.pdf)
図3に示すような発明は「主引用発明からの設計変更等」と判断され、進歩性がないとされます。
具体的なポイントは以下の通りです。
- 材料を最適なものに変更する
- 数値を最適な範囲や好適な範囲に変更する
- 均等物(技術的・機能的に等価な別の要素)に置換する
- 具体的な技術に合わせて設計変更したり設計的事項を採用する
次に、「先行技術の単なる寄せ集め」について検討します。

図4
引用:特許庁 漫画審査基準~AI・IoT編 進歩性(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/comic_ai_iot/04.pdf)
図4にも示すように、元々「昇降手段A」という技術が公知である場合に、これを外壁の作業用ゴンドラに適用し、発明時に知られている防風用カバーや作業用具収納手段を合わせた場合、一見新しい発明のように見えます。
しかし、各構成要素は今まで知られていたもので、本発明はこれら先行技術を単に寄せ集めたものに過ぎません。
このような発明は進歩性がないとされます。
「進歩性が否定される方向に働く要素」のまとめ
これまで解説した内容を以下の図5に示します。

図5
引用:特許庁 漫画審査基準~AI・IoT編 進歩性(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/comic_ai_iot/04.pdf)
「進歩性が否定される方向に働く要素」の検討においては、まず「動機付け」について検討し、続いて「設計変更」「技術の寄せ集め」などを検討します。
これにより、従来技術から進歩性があると判断する際の一つ目の判断が終わります。
「進歩性が肯定される方向に働く要素」の検討
次に「進歩性が肯定される方向に働く要素」を検討します。
特許庁の「特許・実用新案審査基準」の第III部 特許要件「第2節 進歩性」の中に、以下のような規制があります。
引用発明と比較した有利な効果が、例えば、以下の(i)又は(ii)のような場合に該当し、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであることは、進歩性が肯定される方向に働く有力な事情になる。
(i) 請求項に係る発明が、引用発明の有する効果とは異質な効果を有し、この効果が出願時の技術水準から当業者が予測することができたものではない場合
(ii) 請求項に係る発明が、引用発明の有する効果と同質の効果であるが、際だって優れた効果を有し、この効果が出願時の技術水準から当業者が予測することができたものではない場合
少しかたい表現で分かりにくいですよね。
もう少しかみ砕いて解説します。
一つ目の項目は、出願した発明に有利な効果があればいいというわけではなく、「当業者が容易に考え付いたり、実験の結果から推測したりできると理論に基づいて判断できる場合は、進歩性なしと判断されることが多い」という意味です。
二つ目の項目は、出願した発明における有利な効果が、「技術水準から予想される範囲を超えて、顕著なもの」であれば、進歩性ありと判断されることが多いという意味です。
「進歩性が肯定される方向に働く要素」を検討する際には、「阻害要件」についても検討します。
副引用発明を主引用発明に適用することを阻害する事情があることは、論理付けを妨げる要因(阻害要因)として、進歩性が肯定される方向に働く要素となります。
またややこしい表現で分かりにくいですよね。
少しかみ砕いて解説します。
例えば、主引用発明の目的が「高価な装置を使わない」ことだったとします。
さらには、副引用発明の前提が「高価な装置を使う」ことだったとしましょう。
「高価な装置を使いたくない」技術を開発している当業者が、「高価な装置を使う」技術を取り入れるでしょうか?
技術の目的と前提が相反するものであるので、当業者は「装置の価格」という観点では組み合わせません。
ただし、主引用発明と副引用発明を組み合わせることで、生産速度が向上し、製造コストも抑えられるなどの別の有効な効果が生じる発明であれば、進歩性が肯定される方向に働く要素になり得ます。
一方で、阻害要因を考慮したとしても、当業者が出願した発明に容易に想到できたことが、十分に論理付けられた場合は、発明の進歩性は否定されます。
進歩性の判断方法まとめ
進歩性の判断をまとめたものを図6に示します。

図6
引用:特許庁 漫画審査基準~AI・IoT編 進歩性(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/comic_ai_iot/04.pdf)
図6に示すように「進歩性」は「否定される要素」と「肯定される要素」の両方の面から総合的に判断されます。
一見、今までの技術を組み合わせたように見える発明も有効な効果、顕著な効果などがあれば進歩性ありと判断される可能性があります。
そのため、発明の構成だけでなく効果についても細かく検討することが重要です。
AI関連特許における進歩性の特徴とは?
AI関連特許において進歩性なしとされることが多い3つのパターンを見ていきましょう。
- 当業者の通常の創作範囲
- ソフトウェア化やコンピュータ化に伴う課題
- システム化による一般的な効果
順番に解説します。
1.当業者の通常の創作範囲
まずは、「当業者の通常の創作範囲」について解説します。
AI関連発明は、AIが多くの分野で応用されることから、システムや家電など他装置への転用が容易に想像できると判断されやすい特徴があります。
例えば、図7に示すようなものです。

図7
引用:特許庁 漫画審査基準~AI・IoT編 進歩性(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/comic_ai_iot/04.pdf)
この発明では、主引用発明の「スケジュール情報から帰宅時間を把握してお風呂を沸かす」ことを炊飯器に応用しています。
「スケジュール情報から帰宅時間を把握してお風呂を沸かす」ことは、大きな概念で言えば「帰宅時間に合わせて作業が完了するよう装置を制御する」ことです。
この発明は、お風呂を沸かすシステムの「スケジュール情報から把握した時間に合わせて作業を完了させる」という技術を炊飯器に転用した技術といえるでしょう。
すなわち、お風呂を沸かすシステムと炊飯器の二つの発明の技術分野は異なりますが、当業者であれば転用可能なことが分かります。
この場合、有効な効果や阻害要件がなく、当業者が容易に想到できると判断され、進歩性なしと判断されます。
ソフトウェア化やコンピュータ化に伴う課題
AIも含まれるコンピュータ関連の技術の中には、類似の課題を解決するものが多くあります。
例えば、予測精度を上げる、処理速度を上げるなどは、AIを含むコンピュータ関連技術の共通の課題です。
つまり、コンピュータ関連技術の中から生まれるコンピュータ関連発明の中には類似した課題を解決するものが多くあります。
例えば図8に示すような発明です。

図8
引用:特許庁 漫画審査基準~AI・IoT編 進歩性(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/comic_ai_iot/04.pdf)
この発明では、「数式モデルを用いて鋼板の溶接特性を予測する主引用発明」と「ガラスの特性を予測するニューラルネットワークである副引用発明」を組み合わせて鋼板の溶接特性を予測するとしています。
主引用発明の数式モデルも副引用発明のニューラルネットワークも特性を予想をするという課題は共通です。
そのため、同じ課題の技術を組み合わせただけと判断され、進歩性なしとなります。
これはAIにおいても同様です。
ただし、同じ課題を解決する技術同士の組み合わせでも、新たに有用な効果があれば進歩性が肯定される可能性があります。
システム化による一般的な効果
AIが様々なシステムや装置に組み込まれるようになった現在では、このパターンが一番多いのではないでしょうか?
これまで人間が行っていた作業をAIなどで代替させるというものです。
例えば、図9に示すような「センサーから集めた情報を人間が解析していたものをAIで代替する」という発明です。

図9
引用:特許庁 漫画審査基準~AI・IoT編 進歩性(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/comic_ai_iot/04.pdf)
その目的が「処理速度を上げる」というものであれば、AIなどを使用してシステム化すれば人間が処理するより処理速度が向上するのは簡単に予測可能です。
この発明で、AIを使用することで処理速度を上げるだけでなく、AIが各センサーの情報から複数の装置が作業する順番を決めたり、保守点検の順番を決めたりと新たな有用な効果があれば、進歩性が肯定される可能性があります。
次に特許庁が開示しているAI関連特許の進歩性がNGまたはOKの例を見てみましょう。
AI関連特許|進歩性がNGの例

図10に示す発明では進歩性はあるのでしょうか?

図10
引用:AI関連技術に関する事例の追加について令和6年3月13日特許庁審査第一部調整課審査基準室(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/ai_jirei/jirei_tsuika_2024.pdf)
本願発明の請求項1は以下の通りです。
【請求項1】質問者による金融商品に関する問合せの質問文を受け付けて前記質問文に対する回答文を自動生成するカスタマーセンター用回答自動生成装置であって、前記質問文を大規模言語モデルに入力することで、回答文を自動生成することを特徴とするカスタマーセンター用回答自動生成装置。
簡単に言えば、質問者からの金融商品に関する問い合せに対する回答を生成する回答自動生成装置です。
この回答を生成する際に、問い合わせ内容の質問文を大規模言語モデルに入力することが特徴です。
つまり、AIを使って回答を生成しています。
引用発明は次の通りです。
【引用発明1】カスタマーセンターの担当者により、質問者による金融製品に関する問合せの質問文を受け付けて前記質問文に対する回答文を作成する回答作成方法であって、過去の問合せの事例が蓄積されたデータベースを検索して、前記質問文と合致する事例を参照して回答文を作成する回答作成方法。
この発明は、質問者からの金融商品に関する問い合せに対する回答を生成する回答作成方法です。
問い合わせ内容の質問文を受け付けて人間が過去の問い合わせ事例を検索し、人間が質問文に合わせた回答を作成します。
つまり、本願発明の請求項1と引用発明1の大きな差は回答の作成をAIが行うか人間が行うかです。
本願発明の請求項1は人間が行っている業務を生成AIに行わせる単純なシステム化であるため、進歩性が否定されます。
技術開発をして発明が生まれた際には、人間が行っていることを単にAIに置き換えていないかどうかを検討することが重要です。
置き換えることで有効な効果があったり、置き換えるための創意工夫があるかもしれません。
その場合は、発明に盛り込めないか検討しましょう。
有効な効果やこれまでなかった創意工夫の点から進歩性があると判断されるかもしれません。
AI関連特許|進歩性がNGとOKの例

図11に示す請求項1と請求項2の発明では進歩性はあるのでしょうか?

図11
引用:AI関連技術に関する事例の追加について令和6年3月13日特許庁審査第一部調整課審査基準室(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/ai_jirei/jirei_tsuika_2024.pdf)
本願発明の【請求項1】は以下の通りです。
【請求項1】入力された質問文に対して参考情報を付加することにより、大規模言語モデルに入力するためのプロンプトをコンピュータが生成するプロンプト用文章生成方法であって、前記大規模言語モデルは入力できるプロンプトの文字数の上限である制限文字数が設定されており、質問文を含むプロンプトを入力すると、前記質問文に関する回答文を出力する大規模言語モデルであり、前記コンピュータが、前記入力された質問文をもとに、当該質問文の文字数と合わせた合計文字数が前記制限文字数以下の文字数となるように、前記質問文に関連した付加文章を生成する付加文章生成ステップと、前記入力された質問文に対し、前記付加文章生成ステップにより生成された前記付加文章を前記参考情報として追加することによって前記プロンプトを生成するプロンプト生成ステップと、を実行することを特徴とするプロンプト用文章生成方法。
請求項1の発明は、大規模言語モデルに入力するためのプロンプトをコンピュータが生成するプロンプト用文章生成方法です。
本願発明の【請求項2】は請求項1の従属項で以下の通りです。
【請求項2】前記付加文章生成ステップは、前記入力された質問文をもとに、当該質問文に関連した関連文章を複数取得し、取得された複数の前記関連文章から、前記参考情報として適した複数のキーワードを抽出し、前記複数のキーワードを使用して、前記合計文字数が前記制限文字数を超えない前記付加文章を生成するステップであることを特徴とする請求項1に記載のプロンプト用文章生成方法。
請求項2の発明では、請求項1のプロンプト用文章生成方法の参考情報の作成方法を詳細に述べています。
質問文に関連した文章を複数取得し、そこから関連キーワードを抽出して、これを用いた付加文章を参考情報として質問文に追加します。
請求項1および請求項2に共通している点としては、質問文と付加情報を合わせた文字数に制限があることです。
この発明の請求項1は進歩性なし、請求項2は進歩性ありとして判断されています。
判断の理由となった引用発明1を見てみましょう。
引用発明1は、図12の通りです。

図12
引用:AI関連技術に関する事例の追加について令和6年3月13日特許庁審査第一部調整課審査基準室(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/ai_jirei/jirei_tsuika_2024.pdf)
引用発明1は以下の通りです。
【引用発明1】入力された質問文に対して参考情報を付加することにより、大規模言語モデルに入力するためのプロンプトをコンピュータが生成するプロンプト用文章生成方法であって、前記大規模言語モデルは、質問文を含むプロンプトを入力すると、前記質問文に関する回答文を出力する大規模言語モデルであり、前記コンピュータが、前記入力された質問文をもとに、前記質問文に関連した付加文章を生成する付加文章生成ステップと、前記入力された質問文に対し、前記付加文章生成ステップにより生成された前記付加文章を前記参考情報として追加することによって前記プロンプトを生成するプロンプト生成ステップと、を実行することを特徴とするプロンプト用文章生成方法。
引用発明1の発明は、大規模言語モデルに入力するためのプロンプトをコンピュータが生成するプロンプト用文章生成方法です。
質問文と質問文に関連した付加文章を参考情報として生成し、質問文と参考情報である付加文章を用いてプロンプトを生成することを特徴としています。
この引用発明と比較検討したところ、本願発明の請求項1は進歩性なし、請求項2は進歩性ありとして判断されています。
請求項1と引用発明1を見てみると、両方とも参考情報として質問文に関連した付加文章を生成し、参考情報としています。
違いは、文字数の制限です。
この文字数ですが、具体的な文字数も文字数を制限した理由については特段記載されていません。
文字数が多いと処理プロンプトを生成する際の情報処理量が過大となり、処理時間が長くなります。
そのため、文字数を制限して処理時間を短くすることは、当業者なら通常考慮する課題だといえます。
その解決方法として、入力可能な文字数を制限し、文章の文字数が制限を超える場合に超える部分を破棄することで、実際に入力される文章を制限文字数以下とすることは出願時における周知技術であるといえるでしょう。
このため、請求項1は進歩性がないと判断されます。
請求項2を見てみると、参考情報となる付加文章の作成方法について詳しく述べられています。
この方法を開示する先行技術はなく、出願時の通常技術とも言えません。
そのため、進歩性ありと判断されています。
この発明の肝は付加情報を作成することとその文字数を制限していることです。
付加情報を作成する方法を詳細に記載した請求項2は進歩性ありと判断されました。
文字数に関しては、文字数を限定する理由がこれまでの技術から容易に思いつくものであるため、進歩性なしと判断されました。
AI関連技術の開発中に発明が生まれた場合、AIに処理をさせる際になにか特徴がないか工夫がないかをよく洗い出しましょう。
また、数値などを制限する場合、これまでにない効果があるかもしれません。
それについても十分検討しましょう。
技術的な特徴や工夫、数値制限の理由から進歩性ありとなる可能性もあります。
AI関連特許の進歩性で失敗しないために

これまでのことを踏まえて「AI関連技術の進歩性で失敗しない」ためのポイントをまとめます。
- AI化するだけでは特許にならない
- 予測困難な効果を示す
- プロンプト生成・評価指標・データ構造を具体化する
順番に解説します。
AI化するだけでは特許にならない
様々な分野でAIを用いたシステムや製品が開発され、多くの発明が生まれています。
このとき、「人が行っていたことをAIに行わせる」「手動だったことを自動化する」「AIを使うことで高速化・効率化」するだけでは発明の進歩性は認められません。
なぜAIに行わせるのか、そこに一般的に考えうる自動化や高速化・効率化以外の効果がないか、AIに行わせるために何か工夫をしていないかを検討してみてください。
例えば、AIに行わせればカスタマーハラスメントを回避できる、回避した上に顧客の満足度も上がるなど、AIに入れ替えただけでは予測できない効果があると進歩性が肯定される可能性が高くなります。
さらに、AIに作業させるための工夫、例えば予め単語をグルーピングしておき、重要視するべき単語をAIに学習させておいたり、声での対話であれば口調を学習させておいたりといった工夫が考えられます。
予測困難な効果を示す
様々なサービスや製品とAIを組み合わせたときに、「従来とは質的に異なる効果」「技術的に新しい判断・制御」「情報処理の新規プロセス」があると進歩性を認められる可能性が高くなります。
例えば、AIを利用して複数の装置からの情報を集めれば、リアルタイムでの収集解析が可能となり、人間が収集解析するよりも処理が速く効率も上がります。
しかし、この効果はAIを使えば自明な効果です。
そこで、AIを使うことで複数の装置の保守点検順を決める、割り込みでの点検も可能とし、スケジュールも作成するなどできれば、処理速度や効率以外の質的な効果を出すことが可能です。
プロンプト生成・評価指標・データ構造を具体化する
AIのブラックボックス化を避け、 内部処理を構造化して明示することが重要です。
AIは万能で、全て自分で考えてくれるというわけではありません。
内部処理の方法にはその技術・発明特有の構造があるはずです。
例えば、プロンプトを生成する際に、質問者の言葉だけでなく共起語や関連するニュースも加味して付加情報を作成するなど具体的な処理を明示しましょう。
まとめ

今回は、AI関連特許の進歩性について解説してきました。
AI関連特許の進歩性は、一般的なソフトウェア特許よりも厳しく判断される傾向があります。
理由はシンプルで、「AIを使うだけで多くの課題が解決できてしまう」からです。
そのため、以下のような点に注意しなくてはなりません。
- AI化するだけでは特許にならない
- 予測困難な効果を示す
- プロンプト生成・評価指標・データ構造を具体化する
AI関連技術の発明を特許化するためには、「AIに何をさせるのか」ではなく「どう処理させるのか」を技術的に深掘りすることが不可欠です。
「どう処理させるのか」によって、プロンプトの生成やデータの構造などに、その発明ならではの技術的特徴が生じないかをよく検討してください。
その発明ならではの「AIに何をどう処理させるのか」に付随して「予測困難な効果」が生じる可能性があるため、この点もよく検討してください。
AIが一般的に使用されるようになった時代だからこそ、 技術の本質を見抜き、発明の構成を進歩性を満たすようにどこまで具体化できるかが、 企業の知的財産戦略における大きな差となります。
AI関連技術はまだ新しい技術です。
特許庁からも審査の指針などが随時発表されていますが、特許出願やその後の特許審査についてまだまだ不確定な要素が多々あります。
もちろん、ご自身の企業で出願したり審査の対応をすることも可能です。
しかしながら、まだ不確定な要素が多い分野ですので、出願前に弁理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
最後までお読みいただきありがとうございました。

