近年、生成AIを活用してアドバイスを行う製品やサービスが増えています。
ファッションコーディネートや食事の献立のアドバイスなどを利用する方も多いのではないでしょうか?
同じように健康管理に関するアドバイスをAIが行うサービスも増えています。
生成AIを利用して製品やサービスを提供する企業の中には、「うちの生成AIを利用した技術は特許になるんじゃないか?」と考え、特許の申請(出願)をする企業も増えてきています。
上記のような生成AIによるアドバイスを行うサービスや製品は、身近なものであり、必ずしも生成AIに詳しい企業やソフトウェアに詳しい企業が提供しているとは限りません。
新規に参入した企業の中には、特許に慣れていない企業も多くあります。
特許に慣れていない企業が「どのような技術(発明)であれば、生成AIに関する特許として認められるのか」と判断することは非常に難しいと言えるでしょう。
そこで、今回は生成AIが健康管理に関するアドバイスを作成するという株式会社レーベンの特許第7699872号「健康管理システム、健康管理方法、及びプログラム」をわかりやすく解説します。
特許第7699872号の要約

今回解説する特許第7699872号は、対象者の健康状態に応じた健康対策を立案・提示することを目的とした健康管理システム、健康管理方法、プログラムに関する特許です。
本特許の請求の範囲(請求項)は、健康管理システムを基に、この健康管理システムを実行する健康管理方法およびプログラムで構成されています。
ここでは、基本となっている健康管理システムについて要約します。
本発明は、次のような特徴を持っています。
これらを一つの処理フローとして定義している点が、本発明のポイントです。
- 対象者に関する複数の健康関連情報を取得
- 取得した情報を基に対象者の状態を把握
- 対象者の過去の健康関連情報から状態に適した健康対策を選択・生成
- 選択された対策を対象者に提示
この特許で重要なのは、対象者の健康関連情報を取得するとともに、対象者の過去の健康関連情報から状態に適した健康対策を選択・生成することです。
つまり、「どのような情報(健康関連情報)を取得し」「どのように処理し(健康対策を選択・生成し)」「どのような形(健康対策)で提示するか」という一連の流れが、具体的に構成要素として定義されている点です。
かつ、「どのように処理し(健康対策を選択・生成し)」という部分を生成AIに担わせています。
この構成を有することで、単なるアイデアレベルにとどまらず、実装可能性と効果が明確なシステム発明として成立しています。
請求項1の解説
請求の範囲(請求項)の請求項1は、本特許の中核となる独立請求項であり、健康管理システムの基本構成を規定しています。
ここで、請求項1を見てみましょう。
【請求項1】
対象者の呼気成分、及び唾液成分の少なくとも一方を測定した前記対象者の健康状態に関する生体データを収集するデータ収集部と、
生成AIに、前記対象者に適した健康対策を立案させるデータ解析部と、
前記生成AIによって立案された前記健康対策を表示する表示部と、を備え、
前記データ解析部は、前記生成AIに、前記対象者の過去の生体データの履歴を入力し、前記履歴に基づいて前記対象者に適した前記健康対策を立案させる
ことを特徴とする健康管理システム。
こうしてみると、抽象的な表現に見えますね。
これを分かりやすく分解してみると、請求項1は以下のような内容です。
- 対象者の情報(呼気成分・唾液成分の少なくとも一方)の取得
- 対象者の情報(対象者の過去のデータを利用)に基づく判断
- 対象者に合わせた対策の立案
- 対象者に合わせた対策の提示
このように請求項1では、生成AIが「対象者のデータから健康対策を立案する」ことを、具体的に情報処理装置に落とし込み、具体的な機能の組み合わせとして表現しています。
請求項1が解決しようとしている課題
請求項1が解決しようとしている課題は、「対象者に合わせた健康対策の立案が難しい」ことです。
これまでの技術では、対象者から様々な生体データを得ること、生体データから症状の原因を推定することにとどまっていました。
症状の原因を推測したものの、その後の健康対策の提示となると、年齢や性別などの限られた条件に基づき、画一的な対策を示すにすぎませんでした。
すなわち、対象者に合わせた健康対策の立案は、大きな課題です。
本特許では、生成AIを利用することで、対象者に合わせた具体的な健康対策の立案を可能としています。
実際の健康状態は生活習慣・体調・環境要因などによって大きく異なるのは明らかでしょう。
そこで、本特許の「明細書(発明の詳細な説明)」には、過去の生体データの履歴を使用して対象者に適した健康対策を立案することが記載されています。
また、【発明を実施するための形態】には、測定時の生体データから健康対策を提示することも記載されています。
請求項1の構成要素の詳細
本特許の「特許請求の範囲(請求項)」の請求項1は、複数の構成要素から成り立っています。
ここでは、明細書の記載を踏まえ、主な構成を具体的に見ていきましょう。
なお、()内には請求項1での部分を記載しています。
- 健康関連情報取得部(データ収集部)
- 状態把握・分析部(データ解析部)
- 健康対策立案部(データ解析部)
- 健康対策提示部(表示部)
順番に解説します。
健康関連情報取得部(データ収集部)
健康関連情報取得部(データ収集部)は、対象者に関する健康関連情報(生体データ)を取得する部分です。
具体的には、請求項1に記載されているように「対象者の呼気成分および唾液成分の少なくとも一方」が挙げられます。
その他にも「明細書(発明の詳細な説明)」に記載されている以下のようなデータが挙げられます。
- ホルモンレベル
- 画像
- 体温、血圧、心拍数
- 歩数
- 睡眠パターン
- 身体活動量等問診結果
状態把握・分析部(データ解析部)
状態把握・分析部(データ解析部)は、取得された情報を基に、対象者の健康状態を生成AIが把握・分析する部分です。
ここでは、単純な数値判定だけでなく、複数情報の組み合わせによる状態推定が想定されています。
この構成があることで、「情報を集めただけのシステム」から一歩進んだ発明となっています。
健康対策立案部(データ解析部)
健康対策立案部は、対象者に適した健康対策を生成AIが立案する部分です。
対象者の過去の生体データの履歴を入力し、前記履歴に基づいて前記対象者に適した健康対策を立案しています。
また、明細書(発明の詳細な説明)には、あらかじめ用意された対策候補の中から選択する形や、条件に応じて調整する形など、柔軟な実施形態が示されています。
健康対策提示部(表示部)
健康対策提示部(表示部)は、生成AIが立案した健康対策を、対象者に提示する部分です。
このように、ユーザーとのインタラクションまで含めて発明の構成要素としている点が、実用性の高さにつながっています。
請求項1における生成AIの役割
本特許では「生成AI」は非常に重要な役割を担っていますが、生成AI自体の機能を高めたり、改良したりしている訳ではありません。
本特許では、「生成AIが得意な領域の処理をさせる」という点に特徴があり、以下のような処理をさせています。
- 状態分析
- 健康対策の立案(提示内容のパーソナライズ)
順番に解説します。
状態分析
複数の健康関連情報を統合して状態を把握する処理は、生成AIによる特徴抽出・推論と相性が良い領域です。
本特許では、対象者の測定した健康関連情報(生体データ)から対象者の状態を分析しています。
健康対策立案(提示内容のパーソナライズ)
生成AIを利用すれば、対象者の過去の生体データや個人情報から、各対象者に合わせて最適な健康対策の立案が可能です。
さらに、生成AIを利用すれば、健康対策の内容や表現に関して以下のような細かい調整が可能です。
- 表現の個別最適化
- 行動しやすい文言の生成
- 継続を促す工夫
これまでの画一的な健康対策では、対象者に合わせて細かい表現を工夫したり、対象者の生活に合わせた取り入れやすい提案を作ったりすることはできません。
生成AIを利用すれば、対象者の理解度や嗜好に合わせた説明文を生成することができます。
つまり、提案内容のパーソナライズが可能です。
この発明から見える生成AIを活用した発明のコツ

特許第7699872号からは、生成AIを活用した発明を考える上で、次のようなヒントが得られます。
- 「AIを使う」より「処理の流れを定義する」
- 抽象と具体のバランス
順番に解説します。
「AIを使う」より「処理の流れを定義する」
本特許では、AIそのものよりも、情報取得→分析→立案→提示という処理の流れが重視されています。
生成AIの発明を考える場合、本特許のように処理フローを明確にすることが重要です。
抽象と具体のバランス
本特許を見ると、請求項では抽象度を保ちつつ、明細書では具体的な実施形態を丁寧に説明しています。
このバランスが、権利範囲と実施可能性の両立につながります。
これらのコツに気を付けて発明を請求項としてまとめることが非常に重要です。
本願が特許になるまで(審査経過)
この特許第7699872号(特願2024-164938)は審査時に2回拒絶理由通知(特許にできない理由を通知する書類)を受け、それぞれに対して請求項を修正し(補正書を作成・提出し)、意見を述べ(意見書を提出)ています。
順を追って解説します。
審査の流れを簡単に示すと、次の通りです。
1回目の拒絶理由通知
この特許の元になった出願時の請求項1は次の通りです。
【請求項1】
対象者の呼気成分、及び唾液成分の少なくとも一方を測定した前記対象者の健康状態に
関する生体データを収集するデータ収集部と、
AIに、前記生体データに基づいて前記対象者に適した健康対策を立案させるデータ解
析部と、
前記AIによって立案された前記健康対策を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする健康管理システム。
出願時の請求項1は、範囲がかなり広い請求項になっています。
これに対する1回目の請求項1に対する拒絶理由通知は、「進歩性」です。
「この分野の通常の知識を有する人(当業者)であれば、引用文献から容易に発明をすることができた」という理由で特許にできないと判断されました。
そこで、請求項1を以下のように補正しました。
【請求項1】
対象者の呼気成分、及び唾液成分の少なくとも一方を測定した前記対象者の健康状態に関する生体データを収集するデータ収集部と、
AIに、前記生体データに基づいて前記対象者に適した健康対策を立案させるデータ解析部と、
前記AIによって立案された前記健康対策を表示する表示部と、を備え、
前記データ解析部は、前記AIに、前記対象者の過去の生体データの履歴を入力し、前記履歴に基づいて前記対象者に適した前記健康対策を立案させる
ことを特徴とする健康管理システム。
下線部分の「AIに、対象者の過去の生体データの履歴を入力すること」「過去の生体データの履歴に基づいて前記対象者に適した前記健康対策を立案すること」を追記しています。
この補正後の請求項1は、出願時の請求項12と実質的に同一であり、請求項12には拒絶理由が示されていませんでした。
そのことから、出願人は、「拒絶理由は解消された」と意見書で主張しています。
2回目の拒絶理由通知
ところが、2回目の拒絶理由通知が出されました。
今回は「明確性」が理由です。
先ほどの1回目の補正をした請求項1では、「前記生体データに基づいて前記対象者に適した健康対策を立案させる」「前記対象者の過去の生体データの履歴を入力し、前記履歴に基づいて前記対象者に適した前記健康対策を立案させる」という記載があります。
そのため、健康対策が「測定した生体データに基づく」のか「過去の生体データ履歴に基づく」が判断できない「明確性」で拒絶(特許にできないと判断)されています。
また、1回目の補正をした請求項1では、「AIが~」という記載がありますが、このAIのどの機能を使っているのかが不明であるとして、「明確性」で拒絶(特許にできないと判断)されています。
そこで、請求項1を以下のように補正しました。
【請求項1】
対象者の呼気成分、及び唾液成分の少なくとも一方を測定した前記対象者の健康状態に関する生体データを収集するデータ収集部と、
生成AIに、前記対象者に適した健康対策を立案させるデータ解析部と、
前記生成AIによって立案された前記健康対策を表示する表示部と、を備え、
前記データ解析部は、前記生成AIに、前記対象者の過去の生体データの履歴を入力し、前記履歴に基づいて前記対象者に適した前記健康対策を立案させることを特徴とする健康管理システム。
先ほどの1回目の補正を行った請求項1では「AIに、前記生体データに基づいて前記対象者に適した健康対策を立案させるデータ解析部と」としていましたが、今回の補正で「生成AIに、前記対象者に適した健康対策を立案させるデータ解析部と」としています。
つまり「前記生体データに基づいて」を削除し、拒絶理由通知の「測定した生体データに基づいて健康対策を生成する」という構成を含まない請求項としています。
また、下線部分のように「AI」を「生成AI」に補正しています。
その上で、補正した請求項1は「測定した生体データに基づいて健康対策を生成する」という構成を含まないため、明確性をクリアしたことを意見書で述べています。
さらには「AI」を「生成AI」と補正したことで、「AI」の中の「生成」する機能を利用しているとし、明確性をクリアしたとしています。
この審査経過で分かること
この特許の審査経過から、今回の特許では明確性が重要視されたことが分かります。
「AI」にも種類があり、「生成AI」を使うのか「学習AI」を使うのかで出来ることが異なります。
「学習AI」の機能は主に推定・分類ですが、「生成AI」は提案・文章化・対策立案なども可能です。
つまり、「生成AI」とすることで、「この発明のAIがどのような性質を持ち、何をするのか」という審査官の理解が得られ、特許になったといえるでしょう。
もう一つ重要なのは、「測定した生体データに基づいて健康対策を生成する」という構成を請求項1から削除して「過去の生体データに基づいて健康対策を立案させる」としたことです。
明細書(発明の詳細な説明)の【発明を実施するための形態】を見ると、測定した生体データからも健康対策を立案しています。
すなわち、最終的には測定した生体データと過去データの両方を使って健康対策を立案するサービスを提供するものの、「測定した生体データに基づいて健康対策を生成する」ことを省いて権利化しています。
これは、非常に実務的で、成功率の高い戦略です。
また、今回のように、拒絶理由通知の内容を参考にすることで、特許庁がどのような特徴に特許を許可しているか理解できるようになります。
この発明を応用したAI活用発明の例
本特許の考え方は、健康管理以外の分野にも応用可能です。
学習支援システム
学習履歴や理解度を取得し、個々の学習者に適した学習方法や課題を生成・提示するシステムが挙げられます。
業務改善支援AI
業務ログや作業状況を分析し、従業員ごとに最適な改善提案を提示する仕組みの業務改善支援AIも考えられます。
メンタルケア支援
利用者の発話や行動データを基に、心理状態に応じたセルフケア方法を提案するシステムにも応用可能です。
いずれも、構造的には本特許と非常に近い発明として構築できます。
まとめ

今回紹介した特許は、健康管理という身近なテーマを扱いながら、情報処理システムとしての構成を明確に示した発明です。
単に「AI」としてしまうと、「何ができるのか」が明確ではなく、ブラックボックス化してしまいます。
この特許では審査の過程で「生成AI」と限定したことで、「生成AI」の基本的な機能を利用することを明示しています。
この点から「生成AI」とするのか「学習AI」とするのかが「AI関連特許」では非常に重要です。
また、どのデータに基づいて「AI」にどのような処理をさせるのかを明確にすることも重要です。
今回の特許では、明細書(発明の詳細な説明)の中で、測定した生体データからも健康対策を生成することを述べています。
しかし、審査の過程で請求項1から「測定した生体データからも健康対策を生成する」ことを削除し、最も中核にある「過去の生体データに基づいて健康対策を立案させる」ことを権利化しています。
最終的なサービスや製品にこだわることも大切ですが、特許として権利化するという観点で見て権利化できる部分を優先して権利化することも重要です。
とはいえ、「AIに関してどこまで限定すればいいのか」、「どこまで請求の範囲(請求項)に入れていいのか」といった判断は非常に難しいといわざるを得ません。
是非、一度考えてみてください。
生成AIの技術はまだ新しい技術です。
前例が少ない分野ですので、「この技術は発明なのか?」「これを出願(申請)したら特許になる可能性はあるのか?」と疑問をお持ちの方、ご自分で判断するのは難しいと思います。
前例が少ない生成AIの技術こそ、出願前に弁理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
最後までお読みいただきありがとうございました。

