近年、AI関連技術、特にChatGPTに代表される生成AIは産業分野に限らず、個人利用の領域でも急速に広がっています。
多くの企業や個人が生成AIに関わるようになり、新しい技術が生まれ、発明となる技術も生まれています。
発明となる技術を「特許として守りたい」と考える企業や個人が増え、特許申請(特許出願)は増えている傾向です。
こうした背景から、生成AIに関する特許が成立するケースも目立つようになっています。
この記事をご覧のみなさんも、「どのようなAI技術が特許になるのか」と興味をお持ちではないでしょうか。
そこで今回は、ソフトバンク株式会社の特許第7757565号「データ処理システム、データ処理方法、及びプログラム」を例に、生成AI関連の特許の内容をわかりやすく解説します。
特許第7757565号の要約

今回取り上げる特許は 「生成AIを活用してスライドを自動生成し、元の文章との対応関係まで管理できるシステム」 に関するものです。
生成AIに文章を入力してスライドを作成させた場合、次のような課題が生じることがあります。
- 元の文章のどの部分が、どのスライドに対応しているのかわからない
- AIが文章も画像形式でスライドを出力するため、後から文章を検索・編集するのが難しい
- データとして再利用しづらい
本特許はこれらの課題を解決するために、文章とスライドの対応関係を常に記録し、入力した文章を元に後からスライドを編集することを容易にする仕組みを提供しています。
請求項1の解説
まず、特許の中心となる請求項1を見てみましょう。
【請求項1】
ドキュメントデータを取得するドキュメントデータ取得部と、
前記ドキュメントデータをスライド化する指示を受け付けたことに応じて、前記ドキュメントデータを複数のドキュメントブロックに分割して前記複数のドキュメントブロックに対応する複数のスライドを含むスライドデータを生成する指示を含むプロンプトを生成し、前記プロンプトを生成AIモデルに入力して、前記生成AIモデルから出力されたスライドデータを取得するスライド生成処理部と、
前記ドキュメントデータの前記複数のドキュメントブロックのそれぞれに前記複数のスライドのそれぞれを対応付けて前記スライドデータを記憶部に記憶させる対応付け部と
を備えるデータ処理システム。
これを見ると難しいように感じますよね。
簡単にまとめると、次のようなシステムです。
- 「ドキュメント(文章データ)を受け取り、
- ドキュメントを複数のブロックに分割して生成AIにスライド作成を依頼し、
- 作成された複数のスライドとドキュメントブロックを一対一で紐づけて保存する
- その対応関係を活用して、スライドを後から編集可能にするシステム」
-
※ドキュメントブロックとは、ドキュメント全体を文章の意味ごとあるいはスライドに入る分量ごとに分けたものです。
ドキュメントブロックとスライドを紐づけることで、後からドキュメントブロックを修正すればスライドも自動的に更新しやすくなる点が特徴です。
請求項1が解決しようとしている課題
従来の生成AIによるスライド作成には次のような問題がありました。
- 入力したドキュメント(文章)とスライドの対応が不明確
- 出力されたスライドの編集が困難
- 画像出力の場合、文章検索ができず再利用性が低い
請求項1は、ドキュメントブロックとスライドの一対一対応を記録する仕組みによって、これらの問題をまとめて解決しています。
請求項1の構成要素の詳細
明細書も踏まえて、各構成をより詳しく解説します。
1.ドキュメントデータ取得部
ドキュメントデータ取得部は、ユーザーが用意したドキュメントデータを受け取る部分です。
以下のようなさまざまな形式に対応可能です。
- テキストのみ
- テキスト+画像(図、表、グラフなど)
- Markdown形式
- AIチャットで作成したドキュメント
2.スライド生成処理部
スライド生成処理部は以下の工程を担います。
- ドキュメントを意味単位や分量単位で複数のブロックに分割
- 各ブロックに対応するスライドを作成する指示を含むプロンプトを自動生成
- 生成AIにプロンプトを入力し、スライドデータを取得
プロンプトには、「スライドのフォーマット」「内容に適した構成」などの指定を含めることも可能です。
3.対応付け部
対応付け部では、スライド生成と並行して、ドキュメントブロックとスライドの一対一対応を記録します。
これにより、ドキュメント内の該当部分を検索して修正すれば、その修正内容がスライドにも反映されます。
請求項1における生成AIの役割
生成AIは、与えられたプロンプトに基づいてスライドを出力する役割に徹しており、本発明の肝は「ドキュメントブロックとスライドの対応関係の記録」にあります。
生成AIは直接的に対応関係の管理に関わらないため、本発明は「生成AIと周辺の管理構造を組み合わせることで価値を生む発明」と言えます。
この発明から見える生成AIを活用した発明のコツ

本発明から学べるポイントは以下の通りです。
- 生成AIの弱点(結果の構造化・再編集困難)を補完する発明は価値が高い
- 生成AIに任せきりにせず、 「どうプロンプトを作るか」「どうデータを管理するか」が特許のポイントになり得る
- 生成AI出力物の編集性や再利用性を高める工夫は、発明として成立しやすい
生成AIは便利ですが、仕様次第で結果が大きく変わります。
そのため、生成AIに渡すプロンプトや、生成後のデータ管理を工夫する点に着目した発明は今後も増えると考えられます。
この発明を応用したAI活用発明の例
本特許のアイデアを別分野に応用すると、以下のような発明につながります。
例1:マニュアル自動生成+作業手順の対応付け
作業記録をブロック化し、生成AIが「作業手順スライド」を作成する。
各手順とスライドの対応が管理され、現場での検索・修正が容易になる。
例2:営業メールから自動で提案資料を生成
メール本文をブロック化してスライド化する。
メールとスライドを紐づけて管理するため、後から提案内容を修正しやすい。
例3:議事録から自動で報告書及びアクションリストを生成
議題ごとにAIがスライド形式の報告書を作成する。
議事録を修正すれば報告書やアクションリストも更新できる。
まとめ

今回紹介した特許は、生成AIによるスライド生成の課題である「編集のしにくさ」「ドキュメントとの対応不明」を解決する発明です。
生成AIそのものを高度化する発明も重要ですが、 生成AIを使いやすくする「周辺技術」こそ、特許を取得できるチャンスが多い分野です。
みなさんの周りにも「当然」だと思っている生成AIをサポートする技術はありませんか?
「当たり前に使っている生成AIの仕組みの周辺」に、まだ特許化されていない発明が存在するかもしれません。
是非、一度考えてみてください。
生成AIの技術はまだ新しい技術です。
前例が少ない分野ですので、「この技術は発明なのか?」「これを出願(申請)したら特許になる可能性はあるのか?」と疑問をお持ちの方、ご自分で判断するのは難しいと思います。
前例が少ない生成AIの技術こそ、出願前に弁理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
最後までお読みいただきありがとうございました。

